Lesson118


税収2兆、6割は地方財源。もっと高くすべきだね。
医療費財源分も考えて、その経済損失もプラスしてね



基礎からわかる「たばこ税」 税収2兆、6割は地方財源

「たばこ税」の増税を巡る政府税制調査会の議論が本格化してきた。厚生労働省などは、税収増を目指した過去の増税と異なり「健康増進」を目的とした大幅増税で喫煙率を引き下げたい考えで、たばこ業界は強く反発している。たばこ税は毎年度2兆円規模の税収を国と地方にもたらしており、増税は喫煙率の低下による税収減のリスクも伴っている。海外では増税後も喫煙率があまり下がらなかったり、税収が伸びなかったりした例もある。2010年度税制改正に向けた議論の行方が注目される。(経済部 鎌田秀男)

仕組みは 価格の6割超が税金

 日本のたばこ価格の6割以上は税だ。主要銘柄のたばこ1箱(300円)を例にすると、税抜き価格は37%の110・84円、たばこ税が58%の174・88円。これに、5%に相当する14・28円の消費税がかかる。たばこを1日1箱吸う人なら、年間の納税額は7万円弱に上る計算だ。

 たばこ税の税収総額は09年度の予算ベースで2兆795億円。1991年度以降、毎年度2兆円を超えているが、減少傾向にある。健康志向で喫煙者が減り、国内市場が縮小を続けているためだ。

 日本たばこ産業(JT)によると、国内のたばこの総販売本数はピークだった96年度の3483億本から08年度は2458億本まで減った。直近の3年間は毎年度、約5%のペースで減り続けている。

 それでも2兆円以上の税収があるのは98年以降、増税を3回してきたからだ。

 98年12月、旧国鉄の債務処理に充てるため「たばこ特別税」(1本あたり0・82円)が創設され、たばこは主要銘柄で1箱20円値上げされた。03年は企業減税などの財源として同20円、06年も児童手当拡充を目的に同30円値上げされた。

 自民党中心の政権時代、政府・与党は予算に充てる適当な財源が見つからない場合の「帳尻合わせ」としてたばこ増税を繰り返し、「困ったときのたばこ税」とも言われた。

 ただ、たばこ増税による税収確保も限界があり、06年の増税後、翌年度以降の税収は減り続けている。08年には超党派の議員連盟が「1箱1000円」に値上げする増税論をぶち上げたが、たばこ業界などの猛反対に遭い、頓挫した。

 たばこ税収は地方自治体の財政にも影響する。たばこ税の半分は地方たばこ税。国税分の4分の1も地方交付税に回り、合わせると、たばこ税の6割が地方財源に使われている。

増税の目的は 喫煙率下げ健康増進

 新政権でのたばこ税見直しの動きは、10月8日に開かれた政府税制調査会に鳩山首相が「健康に対する負荷を踏まえた課税へ」と検討を指示して本格化した。

 10月30日には、10年度税制改正要望で厚労省が健康増進目的のたばこ増税を求め、同日の記者会見で長浜博行厚労副大臣が「先進国の平均価格はだいたい(1箱)600円で、日本はいま半額だ。今の価格は低すぎる」と主張した。長妻厚労相も11月1日に「たばこは健康の問題もある。ヨーロッパ並みの金額にする必要がある」と述べた。

 欧米諸国に比べて価格が安いたばこを大幅に値上げして「たばこ離れ」を政策的に促し、喫煙率を一気に引き下げる狙いだ。

 厚労省によると、日本人の喫煙率は08年で21・8%で5年前に比べ5・9ポイント低下した。だが、男性の喫煙率は同10・0ポイント低下したものの、36・8%とまだ高い。厚労省は、たばこ価格を600円とした場合、男性の喫煙率はさらに5-10ポイント下がると予想している。

 増税の根拠は、喫煙が健康に及ぼす影響だ。厚労省によると、たばこを吸う男性の肺がんによる死亡率は、吸わない人に比べて約4・5倍も高い。厚労省には、喫煙率が下がれば、肺がんなどの疾患率が低下し、医療費の削減につながるとの皮算用もある。日本も批准した「たばこ規制枠組み条約」は「価格・課税措置がたばこの消費減少に効果的」となるよう促している。

 民主党は、たばこ増税を政権公約(マニフェスト)では掲げていなかったが、7月にまとめた政策集で、たばこ税を「国民の健康確保を目的とする税に改めるべき」「喫煙率を下げるための価格政策の一環として税を位置付け」ると明記していた。

増税の影響は 販売減確実、業界反発

 大幅なたばこ増税が実現すれば、市場の縮小は必至で、販売減が予想されるたばこ業界は反発している。

 日本たばこ産業(JT)は、1箱500円への値上げでも喫煙者の半数が禁煙すると見ている。志水雅一副社長は「600円では仮定にもならない。普通の会社が突然、販売が半分になると言われたらどうしますか」と憤る。JTは、大幅増税となった場合、販売の落ち込みをカバーするため、税抜き価格も値上げする考えも示している。

 国内の葉タバコ生産者も増税に反対だ。全国たばこ耕作組合中央会は「増税されれば、たばこ消費量が減少し、減反に直結する」と訴える。

 京大大学院の依田高典教授によると、1箱600円に値上げされた場合、喫煙者の62%が禁煙を決意するという。5か月後の禁煙成功率は54%といい、現在の喫煙者の3割程度がたばこをやめるとの推計だ。

 依田教授の試算では、600円への値上げで、1箱当たり300円の増税と仮定すれば、1兆7000億円程度の税収増が見込めるという。ただ、依田教授も「税を取るために(明治時代から)100年以上もたばこを売ってきた政府が、健康増進を理由に、いきなり大幅増税するのは整合性がとれない」と指摘し、たばこ事業法を改正した上で10-20年かけて増税すべきだと主張している。

 中央大法科大学院の森信茂樹教授は、低所得者層ほど家計に占めるたばこ支出の割合が高く、たばこ増税は家計が苦しい世帯の重税感が増すと指摘している。

議論の行方 大幅引き上げ困難か

 増税で喫煙率が下がれば税収に影響が出かねない。ガソリンなどにかかる暫定税率の廃止や、法人税収の激減で苦しい予算編成を強いられる中、2兆円規模の税源の扱いは、政府も慎重に考えざるを得ない。

 財務省幹部は「増税すれば税収はある程度は上がるだろうが、どこかで限界点が来る」と指摘する。

 たばこ税は、たばこ事業の発展と財源確保を目的とした「たばこ事業法」のもとで財務省が所管しているが、民主党は政策集で事業法の廃止と健康増進目的の新法創設を増税と同時に行う方針を掲げている。

 古本伸一郎・財務政務官も「事業法を入り口で直すことも視野に入れなければならない」と話しており、法律論議に踏み込めば、増税が来年度予算に間に合うかどうか微妙だ。

 このため、来年度税制改正での大幅増税は難しく、増税するとしても「せいぜい1箱数十円程度」(財務省幹部)との見方もある。ただ、これでは「自民党時代と同じ帳尻合わせ」との指摘も出そうだ。たばこ増税には「取りやすいところから取る大衆増税」との批判も根強いだけに、来夏の参院選を控えた民主党政権はジレンマを抱えている。

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欧米は1箱600-1000円

増税後、密輸品増加も

 欧米諸国では10年以上をかけてたばこ増税を進めた結果、1箱当たりの価格は円換算で600-1000円程度に高まった。厚労省によると、06年の各国の喫煙率(男女)は米国21・6%、英国26・0%、フランス25・4%、オーストラリア17・4%などだ。

 海外では、増税後、喫煙者が密輸品などに手を出し、喫煙率はあまり下がらないのに、税収が減る「虻蜂(あぶはち)取らず」になった例もある。

 JTなどによると、英国ではたばこ増税が進むにつれ、密輸品が市場に出回りだした。一時は、たばこ消費量のうち密輸品や、国外で購入して持ち込んだ外国産たばこなど、英国で税金を納めていないたばこの割合が37%に上ったとの推計もある。

 ドイツでは、喫煙者の自衛策に政府が手を焼いている。フィリップ・モリス・ジャパンによると、ドイツでは01年末から08年末までに1箱あたりの税額が1・8倍に引き上げられたが、喫煙率は29%(99年)から28%(07年)へとわずかしか下がらなかった。しかも、喫煙率が下がらなければ税収は大幅に増えるはずだが、実際は1割強の伸びにとどまった。

 この間、ドイツの愛煙家やたばこメーカーはあの手この手の節税策を編み出していた。税の安い刻みたばこを使い、紙巻きたばこを自分で作る道具が人気を呼んだほか、1本が18センチもある長いたばこが売られ、3本に分けて吸う方法まで生まれた。

(2009年11月19日 記事提供 読売新聞社 )