喫煙への意識変化が狙い
【解説】受動喫煙防止を掲げた健康増進法の施行から約7年。厚生労働省が飲食店など公共の場の全面禁煙要請に踏み切ったのは、欧米に比べ対策が遅れている現状に一石を投じ、喫煙に対する国民の意識変化を促す狙いがある。関係施設の対応が進まなければ、将来的には強制力を伴う措置を取る可能性もありそうだ。
2003年5月施行の同法は、劇場や飲食店などの管理者に受動喫煙の防止に必要な措置を講ずるよう求めた。ただ施設側の反発などへの配慮から、あくまで「努力規定」にとどめるなど、強い措置には踏み切れない状況が続いた。
こうした中、08年に世界保健機関(WHO)が実施した各国の受動喫煙対策の調査で、日本の評価は5段階で下から2番目の「2」にとどまる結果に。公共施設の完全禁煙を実現して「5」とされた英国やカナダなどに比べ対応の遅れが明白になった。
WHOは「たばこ規制枠組み条約」を発効させたほか、勧告で「分煙や換気で受動喫煙の害を減らすことはできない」と指摘、各国に完全禁煙の法制化を求めるなど次々に対策を打ち出している。厚労省による今回の対応も、こうした時代の流れを勘案したものだ。
今回の通知に強制力はなく、実効性を疑問視する声もある。不景気が続く中、全面禁煙措置が業績悪化につながることを警戒する経営者も多いが、「たばこの害」への認識が定着する中、国民全体であらためて論議を深める必要があるだろう。
厚労省通知のポイント
受動喫煙防止対策について厚生労働省が25日に出した通知のポイントは次の通り。
一、受動喫煙による健康への悪影響は科学的に明白
一、健康増進法は、受動喫煙防止措置を取る努力義務を課している
一、多くの人が利用する公共的な空間は原則全面禁煙であるべきだ
一、屋外でも、子どもが利用する空間は受動喫煙防止の配慮が必要
一、全面禁煙が困難な場合は当面、施設管理者に喫煙区域設置などの対策を要請。将来的に全面禁煙を目指すよう求める
一、その場合、喫煙区域と禁煙区域を明確に表示し、未成年者らが入らないよう措置を講じる
全面禁煙要請の対象施設
厚生労働省が通知で、原則全面禁煙を求めた主な施設は次の通り。
【公共施設】学校、体育館、病院、官公庁施設、社会福祉施設
【娯楽施設】劇場、美術館、博物館、屋外競技場、パチンコ店、ゲームセンター
【商業施設】百貨店、商店、飲食店、金融機関
【交通関係機関】駅、バスターミナル、航空旅客ターミナル、旅客船ターミナル、鉄道車両、バス、タクシー、航空機、旅客船
【その他】集会場、展示場、事務所、ホテル、旅館などの宿泊施設
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