Lesson148


たばこを買わずに健康を買えば、
医療費が少なくなり、それが他の消費に回る。
社会に損失を与える自由の意味は?


知事「モデルケースに」  反発も、効果は未知数 
受動喫煙防止条例

 公共的施設での禁煙や分煙を義務化した全国初の神奈川県の受動喫煙防止条例が1日、施行された。規制強化に及び腰な国に先駆け罰則も導入。一足先に県内で禁煙を始めた外食チェーンからは好評の声も。だが、喫煙者が多い小規模飲食店やパチンコ店は、業界の反発で当面規制対象外になった。「全国のモデルケースに」と松沢成文(まつざわ・しげふみ)知事は胸を張るが、効果や普及の先行きは未知数だ。

▽「悪法」

  「悪法だ。零細な飲食店は世の中から去れということか」

 中小の喫茶店や居酒屋など約500店が加盟する神奈川県喫茶飲食生活衛生同業組合の八亀忠勝(やかめ・ただかつ)理事長は条例に不満をぶちまけた。「コーヒーやアルコールは、たばこと切っても切り離せない。禁煙は困難」と主張。分煙も設備投資が必要となり「不況でどこも余裕がない」。

 利用客の7、8割が喫煙者とされるパチンコ業界も頭を痛める。全国で1万2千店弱が加入する全日本遊技事業協同組合連合会(東京)の広報担当者は「中小店にとって、分煙はコスト面で難しい。禁煙にすれば客足が遠のく」と心配する。

 条例は制定過程で、業界の反発で小規模飲食店やパチンコ店などを努力義務とした経緯がある。

 しかし、松沢氏は3月末、共同通信の取材に「毎年、定期的に実態調査する。努力義務施設で防止策が進んでなければ、罰則導入も検討する」と明言。横浜市の飲食店主は「県の言う通りだと経営が立ちゆかない店も出る」と懸念する。

▽客足

 大手居酒屋チェーン「ワタミ」(東京)には、東京、千葉や静岡、新潟の各都県で2005年に開いた禁煙居酒屋4店を1年で閉じた苦い経験がある。宴会が減り、喫煙者が多い深夜の客足が伸びなかったからだ。だが、施行を受け県内の系列73店を順次、分煙化する予定。担当者は「費用がいくらかかるか分からない。同業他社の動きが気になる」と打ち明けた。

 一方、施行に先んじ禁煙とした大手外食チェーンでは、好評の声が多い。県内の全298店を3月1日までに禁煙にした日本マクドナルド(東京)。「女性や家族連れが増えた」「客の回転率が上がった」。各店からおおむね評価する意見が上がる。客に禁煙を説明し理解を求めているが、トラブルはないという。広報担当者は「マイナスはあまりない」と話す。

▽普及は

 条例の詳細を知るため、ほかの自治体や地方議会が県を相次いで視察、注目度は高い。松沢氏は「条例が素晴らしい成果を上げると確信している」と豪語するが"神奈川方式"は広がるのか。

 2月に公共空間の原則全面禁煙を全国の自治体などに要請した厚生労働省。省内には「喫煙の自由の主張もあり、国として強制手段に踏み切るのは簡単ではない」との慎重論もあるが、幹部は「たばこの煙への世間の意識が高まってきた」とみる。

 当初は11年度の予定だった全国の飲食店や宿泊施設などの実施状況調査を、今秋までには行う方向で検討するなど、取り組みを進める構えだ。

(2010年4月2日 提供:共同通信社 )