受動喫煙の防止のため、厚生労働省が飲食店など多数が利用する施設での原則全面禁煙を通知してから2カ月。神奈川県では4月1日から全国で初めて条例による規制も始まった。しかし、山梨では無尽など酒の席でたばこは欠かせないという認識が一般的。なかなか飲食店の禁煙化が進まないのが実情だ。【小林悠太】
◇組合加盟、73店舗中たった5件 開店時に掲げる所も
JR甲府駅前のトンカツ店。3年前からランチタイムは禁煙にしているが、夜は今も「全面喫煙可」だ。男性店主(59)は「夜は飲むお客さんが中心なので禁煙は難しい。多くのお客さんにおいしく食事を味わってもらうには、本当は禁煙の方がいいのですが……」と複雑な胸中を明かす。
県内飲食店73店舗が加盟する山梨飲食業協同組合によると、加盟店のうち全面禁煙は5店舗程度。辻和夫副理事長は「飲めば吸いたくなるもの。酒を出す店では、なかなか禁煙は進まない」と話す。
県は04年2月から禁煙・分煙をしている施設を認定してステッカーを張ってもらっているが、飲食店に限れば認定数は44件(3月1日現在)と伸び悩んでいる。
飲食店の禁煙・分煙を進めようと、県健康増進課は昨年11月に郡内地域の279店舗を巡回して禁煙や分煙を呼びかけたものの「灰皿を片づけてみたが、食器を灰皿にする客が増え、やむなく元に戻した」「『禁煙にすると無尽の会場として利用しない』と言われた」などの声が上がり、なかなか思うようにはいかないという。
ただ、新しい店では、最初から全面禁煙を掲げる所もある。
甲斐市長塚のうどん店「さぬき麺工房つるる」では、08年11月の開店時から全面禁煙だ。受動喫煙防止の潮流を受けて決めたという。上西智明店長(40)は「喫煙者に敬遠されるデメリットもありますが、家族連れに喜ばれるメリットの方が大きいと思う」と話す。
受動喫煙対策を進めてきた岡本まさ子・前県峡東保健所長は「山梨では飲食店での喫煙は一般的です。でも観光客には『禁煙でなけれだめ』という人が結構いる。観光政策と連携すれば禁煙化は進むでしょう」と話す。
ただ、全面禁煙には愛煙家から異論もある。甲府市の会社員女性(26)は「食事後の一服は格別です。ランチの時でも、全面禁煙ではなく分煙にしてほしい」と話す。
とはいえ、分煙は室内の改装が必要になり、全面禁煙よりもコストがかかる。冒頭のトンカツ店主は「小規模な店で分煙は難しい」と明かす。
県によると、県内の喫煙率(08年度)は男性が30・9%、女性が10・3%。男性はピーク時の92年度(55・8%)から年々減少しているが、女性は横ばいだ。