◇ニコチン含まぬ、液体霧状に…
雰囲気は近く/「使い切り」紙巻きとほぼ同額…
増税追い風?/禁煙効果、WHO「疑問」 品質、問題の製品も
10月1日からのたばこ増税を前に、禁煙・減煙補助グッズが人気を集めている。中でも数年前から登場した「電子たばこ」は、大手コンビニやスーパーなどが取り扱いを拡大するなど、目にした人も多いのでは。「禁煙用品として効果がない」、「一部商品はニコチンを含有し薬事法違反の可能性がある」などの指摘もあるものの、懐具合が気になる喫煙者のひとりとして、電子たばこ事情を調べてみた。【喫煙歴15年・山田泰蔵】
「意外に安いと思って手が伸びた。気晴らしくらいになればいい」。今月初め、東京都江東区のコンビニで、同区の男性会社員(38)は初めて電子たばこを手に取った。約60本相当を吸える使い捨て式で980円。普段吸っている20本入り300円のたばことほぼ同じコストが購入の決め手になった。試しに一服。「雰囲気は味わえそうだな」と同僚の分も買い求めた。
電子たばこは、本物のたばことは違い、たばこの形状をした電子機器。たばこで葉が詰まっている部分にはバッテリーが入っていて、吸い込むと先端のLEDランプが赤く光る。吸い口のカートリッジに入った液体が電気の熱で蒸気に変わり、吐き出すとあたかも紫煙をくゆらすようになる。国内では、ニコチンの含まれないものしか販売できない。
08年ごろから、アイデアグッズ販売会社や飲食店運営会社、出版社などさまざまな業態が輸入して販売を始め、大手のコンビニ、スーパーにも広がった。既に数十万本以上が販売されたとみられる。
ほとんどは中国製で1000円前後の使い切り式と、カートリッジを交換して繰り返し使える充電式がある。充電式は1500円程度から1万円を超える高級品までさまざま。08年末から試験販売を始めていた大手スーパーのイオンは、「お試しで購入しやすい使い切り式や、低価格の充電式が売れていている」という。今年6月から販売アイテムを20種に拡大し、全国展開を始めた。
「売り上げは順調に増えている。たばこ値上げで今後も期待できそう」。5月から電子たばこの販売を始めたコンビニ大手、セブン―イレブンの担当者は話す。10月までに品数を増やして販売を強化する方針だ。
電子たばこは「たばこ味」などの液体を気化させて楽しむものだが、国民生活センターは8月、調査した25銘柄中11銘柄のカートリッジの液体から微量のニコチンを検出したとするテスト結果を公表した。実際に吸い込む蒸気にニコチンが含まれているかは確認できなかったが「薬事法違反の可能性もある」と指摘した。
電子たばこを販売するある事業者は「製造ラインで混入した可能性が高い」と推測する。世界中の電子たばこの大半を製造している中国では、欧米向けにニコチン入りも作っているため、同じラインで作った場合、混入の可能性があるという。
電子たばこの液体成分はほとんど公表されていないが、イオンは「独自の分析で問題のある成分が含まれていないかは確認している」という。
業者の中には、国産化を進める動きもある。「“TOKYO”SMOKER」ブランドを展開するジェイ・エス・シー(東京)は「中国では、品質管理が難しい工場もあり国産化を選んだ」と話す。
世界保健機関(WHO)は08年、電子たばこについて「禁煙効果には疑問がある」と指摘した。しかし、ある事業者は「1本でも2本でもたばこの代わりになれば減煙につながる」と強調する。
私も吸ってみた。たばこの雰囲気は楽しめる。自宅で吸えば、ホタル族を卒業できるかもしれない。
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本物のたばこではない電子たばこだが、公共交通機関では対応が異なる。
日本航空は、JTが5月から販売を始めた無煙たばこの機内利用を認めているが、「電子たばこは蒸気が出る電子機器。飛行に影響を与える可能性は否定できない」と禁止の扱いだ。無煙たばこを禁止する全日空も「他のお客様の快適性を損ねる恐れがある」と使用禁止だ。
一方、JR東日本は、「禁止まではしていないが、混雑した車内や他のお客様との兼ね合いで、自粛をお願いすることはありうる」。JR東海も「現場でお声かけさせていただくことがあるかもしれないが禁止はしていない」と、状況を見守る方針だ。ただ、JR北海道は「煙に見えるため、他の乗客に誤解を与える」と車内での利用は禁止。ただ、ホームでは禁止まではしていない。
◇来月値上げ…JT、売り上げ大幅減か
日本の喫煙人口は近年減少の一途で、今年は2495万人。この10年で、約4分の1がたばこをやめた。今回のたばこ値上げは過去の値上げに比べて、増税幅が大きい。代表的な銘柄であるマイルドセブンは1箱300円から410円に、セブンスターは300円が440円になる。
JTの試算では、販売本数は前年比25%減となる見通しで、「これまで経験したことのない大幅減」(同社IR広報部)になりそうだという。同社に電子たばこを売らないのかをたずねたら「われわれは、たばこを売る会社。禁煙につながるような商品は販売しない」とのことだった。