Lesson185


受動喫煙の危険


受動喫煙の被害が深刻です。

 ◇職場の喫煙規制、義務化 来年「労働安全衛生法」改正案提出へ

 ◇現在は「努力義務」止まり 小規模事業所ほど対策遅れ

 受動喫煙の影響を調べている厚生労働省の研究班は、年間に受動喫煙が原因で肺がんや心臓病で死亡する約6800人の成人のうち「半数以上の約3600人は職場での受動喫煙が原因」との推計値を発表した。職場の受動喫煙防止は現在、健康増進法に基づく事業者の努力義務にとどまっているが、厚労省は労働者保護の観点から、受動喫煙防止の義務化を労働安全衛生法に明記する意向だ。来年の通常国会に同法改正案を提出することを目指している。

 職場での受動喫煙問題に取り組む岡本光樹弁護士(東京)は、常に10〜20件の相談を抱えている。

 「建設事務所の職場は約20人の従業員がほとんどが喫煙者。分煙さえされず、このままでは体が参ってしまいそうです。でも家族を抱え、会社と対立するわけにもいきません」

 昨年11月、50代の男性会社員からはこんな相談が寄せられた。この男性のように、とりわけ小規模の職場で受動喫煙被害を訴える人は多い。

 厚労省の調査(07年)では、同省のガイドラインに沿って禁煙か分煙の対策を取っている事業所は全体の46%だった。しかし、規模別にみると、従業員5000人以上の大企業では100%だったのに対し、10〜29人では44%。小規模の事業所ほど対策が遅れている実情が浮かんだ。

 不十分な分煙に苦しむ人もいる。不動産会社に勤める40代の女性は頭痛などの症状が表れ、今年4月に「受動喫煙症」と診断された。職場は喫煙スペースと禁煙スペースに分かれてはいるものの、煙が遮断されてはいなかった。女性は診断書を会社に提出し、職場は禁煙になった。だが女性は今も休職中という。

 職場での受動喫煙に苦しむ人の中には、勤務先の提訴に踏み切る人もいる。だが、多くは上司に「大げさだ」などと言われ泣き寝入りしたり、退職や休職に追い込まれる人も少なくない。

 厚労省は今年2月、健康増進法に基づき、官公庁や飲食店など不特定多数の人が利用する公共的施設は原則全面禁煙とする通知を出した。ただし、努力義務規定に過ぎず、岡本弁護士は「まだ認識の低い企業も少なくない」と指摘する。このため、厚労省は同法ではなく、労働安全衛生法で規制を強化し、「義務付け」に格上げすることにした。従来の規制対象が「公共の場での受動喫煙」なのに対し、「従業員の受動喫煙」に着目した本格的な喫煙規制といえる。【山田夢留】

 ◇飲食店、対応難しく

 政府が規制強化に乗り出す中、飲食店など客が喫煙する職場は難しい対応を迫られる。厚労省は▽浮遊粉じんの空気中濃度を基準以下に▽濃度が基準以下になる十分な換気量の確保――のいずれかを義務づける方向で検討している。いずれにせよ、排気設備の取り付けなど抜本策が必要になりそうだ。

 居酒屋やバーなどを全国展開する、ある大手飲食チェーンは、条例で受動喫煙防止が義務づけられている神奈川県内の一部店舗を除き、分煙で対応している。だが、法改正が実現すれば、全面禁煙か施設改修を迫られかねない。同社は神奈川県内の対応だけで数百万円かかったといい、担当者は「お酒にたばこはつきもの。さらに設備投資するのは苦しく、全店舗での禁煙は難しい」と頭を抱える。

 規制は、同省の専門委員会が示した「1立方メートル当たりの浮遊粉じん0.15ミリグラム以下」が有力だ。だが、それさえ世界保健機関(WHO)や米国の基準より4〜6倍も緩く、「不十分」と指摘する専門家も多い。

(2010年10月11日 提供:毎日新聞社)