習慣的喫煙による昼間血圧の上昇は中心血圧の上昇や心肥大を引き起こすと報告されており、これらは心血管イベントの独立したリスク因子であることも分かっている。そこで、クリニック神宮前(奈良県橿原市)院長の高見武志氏は、禁煙が中心血圧や心肥大、左室拡張能に及ぼす影響について検討し、その結果を福岡市で10月15日から開催された第33回日本高血圧学会で報告した。
対象は同クリニックで禁煙治療を行い、1年間禁煙を遵守できた23人(禁煙遵守群)と禁煙を遵守できなかった37人(禁煙非遵守群)の計60人。禁煙治療前と48週後における中心血圧および橈骨augmentation index(AI)はオムロン ヘルスケアの血圧脈波検査装置「HEM-9000AI」を用いて測定し、左室重量と左室拡張機能は心エコー所見から評価した。
患者背景をみると、禁煙治療前の1日当たりの喫煙本数は禁煙遵守群が25.6本、禁煙非遵守群が27.4本で、群間差はなかった。その他、年齢、男女比率、BMI、随時収縮期血圧、高血圧・糖尿病・脂質異常症の罹患率などで両群間に有意な差はみられなかった。
禁煙補助薬を用いて12週間の治療を行い、その36週後、つまり、禁煙治療開始から48週後に中心血圧などを測定した。なお、禁煙治療後の喫煙本数は禁煙遵守群が0本、禁煙非遵守群が25.6本であった。
禁煙治療前と48週後の収縮期血圧をみると、禁煙遵守群では117.6mmHgから115.8mmHgに、禁煙非遵守群では119.7mmHgから117.8mmHgにそれぞれ低下したが、両群とも治療前後でも、治療後の両群間にも有意差は認められなかった。
一方、中心血圧は、禁煙遵守群では108.4mmHgから102.3mmHgに有意に低下したが(p<0.05)、禁煙非遵守群では110.1mmHgから111.3mmHgと推移し、有意な変化は認められなかった。治療後の中心血圧は両群間で有意な差が認められた(p<0.05)。また、脈拍数75に換算した橈骨AI値は、禁煙遵守群でのみ有意に低下したが(p<0.05)、禁煙治療後における両群の間では有意差は認められなかった。
次に、左室重量係数(LVMI)と左心室拡張早期速度(e’)について検討したが、禁煙治療前後において、LVMIもe’も有意な変化はなかった。これらの指標は、改善効果が現れるのに時間がかかるためと考えられた。
今回の検討対象者は禁煙治療以外、特に治療を受けていないことから、禁煙治療に成功すると中心血圧が改善される可能性が示された。そのため、禁煙治療は心血管イベントの1次予防に有用である可能性があると考えられた。高見氏は、今後は高血圧患者の禁煙治療についても検討する必要があると述べた。