喫煙は様々な疾患のリスク上昇に関係している。フィンランドEastern Finland大学のMinna Rusanen氏らは、大規模な前向きコホート研究を実施して、50〜60歳時にヘビースモーカーだった人々の約20年後の認知症リスクは非喫煙者の2.14倍、アルツハイマー病(AD)リスクは2.57倍、脳血管性認知症(VaD)リスクは2.72倍になることを明らかにした。論文は、Arch Intern Med誌電子版に2010年10月25日に掲載された。
喫煙は、癌や心血管疾患など、命にかかわる複数の病気の危険因子と認識されている。一方でパーキンソン病については、喫煙によるリスク低下が報告されている。認知症、特にADとの関係については議論が続いており、十分な研究が行われたとは言えない。
ADは、神経変性が始まってから症状発現までに長い時間がかかると考えられているため、危険因子があるとすれば中年期以前の曝露が罹患に関係している可能性がある。そこで著者らは、中年期の喫煙量と、数十年後の認知症、AD、VaD罹患の関係を、大規模かつ多様な集団を対象に分析する世界初の研究を実施した。
対象は、医療保険グループである北カリフォルニアKaiser Permanente Medical Care Programに加入しており、1978〜85年に行われた健康診断を受診して喫煙量に関する情報などを提供した人々の中から選んだ。当時の年齢が50〜60歳で、94年の時点で生存しており、引き続きこの医療保険グループに加入していた2万1123人(平均年齢71.6歳)を前向き分析の対象とした。
94年1月1日から08年7月31日までに認知症、AD、VaDと診断されていたかどうかを電子的医療記録に基づいて判定した。多変量Cox比例ハザードモデルを用いて中年期の喫煙と認知症リスクの関係を調べた。
平均23年間の追跡中に計5367人(25.4%)が認知症と診断されていた。うち1136人がAD、416人がVaDだった。
認知症の罹患率は人種間で有意に異なっていた。白人に比べ黒人に多く、東洋人には少なかった。
年齢調整した1万人当たりの罹患率は、非喫煙者が409.03(95%信頼区間392.02-426.03)、過去の喫煙者は403.08(381.05-425.11)。喫煙者では、1日に0.5箱未満のグループが398.19(337.64-458.75)、0.5〜1箱のグループは483.59(425.64-541.54)、1〜2箱は489.14(410.44-567.85)、2箱以上では786.42(481.23-1091.61)となった。
認知症リスク上昇は、1日に2箱以上喫煙していたグループで顕著だった。年齢、性別、学歴、人種、配偶者の有無、高血圧、脂質異常症、BMI、糖尿病、心疾患、脳卒中、飲酒で調整して、非喫煙者と比較した認知症リスクを求めたところ、喫煙量が0.5箱未満群の調整ハザード比は1.04(0.91-1.20)、0.5〜1箱群では1.37(1.23-1.52)、1〜2箱群は1.44(1.26-1.64)、2箱以上群は2.14(1.65-2.78)となった。過去の喫煙者のハザード比は1.00(0.94-1.07)で、リスク上昇は見られなかった。
ADについても、1日に2箱以上の人々に顕著なリスク上昇が認められた。非喫煙者に比べ、喫煙量が1日に2箱以上の人々の調整ハザード比は2.57(1.63-4.03)だった。それ以外のグループのリスク上昇は有意でなかった。1〜2箱群は1.18(0.92-1.52)、0.5〜1箱群は1.11(0.90-1.36)、0.5箱未満群は0.80(0.61-1.06)、過去の喫煙者は1.00(0.89-1.13)。
VaDリスクについても同様の結果が得られた。2箱以上群の調整ハザード比は2.72(1.20-6.18)、1〜2箱群ではハザード比は1.42(0.95-2.13)、0.5〜1箱は1.20(0.84-1.70)、0.5箱未満が1.05(0.69-1.61)、過去の喫煙者は0.99(0.80-1.22)。
1日に2箱以上喫煙していた人々の認知症リスク上昇は、性別や人種にかかわらず認められた。中年期にヘビースモーカーだった人の約20年後の認知症リスクは非喫煙者の2倍以上で、喫煙の脳への影響は長期にわたると考えられた。
原題は「Heavy Smoking in Midlife and Long-term Risk of Alzheimer Disease and Vascular Dementia」、概要は、Arch Intern Med誌のWebサイトで閲覧できる。