英国の男性医師集団34,000人を50年にわたって追跡し、たばこと寿命の関係を調べた研究結果が、2004年に英国医師会誌に掲載された。喫煙者は、非喫煙者に比べて、寿命が10年短かった。18際からたばこを吸い始めた人が30歳で禁煙すると10年、40歳で9年、50歳で6年、60歳でも3年の寿命を稼げることが示された。
この研究は、50年続いた疫学研究というだけでも非常に珍しい。その始まりから筆頭著者であるオックスフォード大のドール博士は91歳である。たばこの害を確信し37歳で禁煙するまで、喫煙歴19年のスモーカーだったという。当初5年計画で始まった研究だが、結局50年も続くことになった。
40年後の結果として、たばこによって死亡リスクが上がる24種類の病気が示された。口腔(こうくう)・咽頭(いんとう)・喉頭(こうとう)、肺、食道がんでは、1日25本以上のヘビースモーカーで死亡リスクがたばこを吸わない人の15倍以上になった。膀胱(ぼうこう)、膵臓(すいぞう)がんは3倍以上、胃がん、骨髄性白血病、直腸がんでも死亡リスクが上昇していた。
がん以外では、慢性閉塞(へいそく)性肺疾患などの呼吸器疾患、心筋梗塞(こうそく)や脳卒中などの循環器疾患、消化性潰瘍(かいよう)、肝硬変、自殺などでリスクが上がっていた。唯一、パーキンソン病だけが、統計的に意味のあるリスクの低下が観察されている。
50年研究では、主に出生年代別のたばこ死亡との関係が、たばこの本数別や禁煙した年齢層別に分析されている。50年の間に、たばこを吸わないグループの寿命は時がたつにつれて延びているのに対し、たばこを吸い続けたグループではほとんど変わっていない。その差は広がる一方であった。
たばこをやめた人の中には、健康を害した結果そうせざるをえなかった人たちもいるわけだから、禁煙による寿命延長効果は実際にはもっと大きいと考えられる。
(国立がんセンター予防研究部長 津金 昌一郎)
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