「命が大切」「営業が...」 職場の禁煙、意見二分
毎年6千人以上が肺がんなどで死亡する原因とされる受動喫煙。厚生労働省は職場の全面禁煙か分煙を義務付ける法改正案を早ければ来年の通常国会に提出する。受動喫煙で健康を害した人たちは対策の徹底を求めるが、顧客が喫煙する飲食店などは客離れやコスト増を懸念している。
都内のビル管理業に勤める40代の女性は今年6月、「慢性受動喫煙症」と診断された。17年前に入社以来、鼻や目、のどの痛みに悩まされ、常時マスクが欠かせない。フロアにいる約20人のうち、半数以上が喫煙者。5年前に喫煙室が設置されたが、換気設備がなく、扉が開放状態で煙が漏れ、症状は治まるどころか悪化した。
手足のしびれやストレス性の婦人科疾患なども加わり、「たばこの煙がつらい」と改善を訴え続けたが、上司は「がまんしろ」と取り合わず、「あなた以外にも働ける人はたくさんいる」などと暗に退職を迫られた。
今年9月からは休職状態に。女性は「喫煙は仕事に必要なものではない。人の命とどちらが大切ですか」と話す。
厚生労働省研究班は9月、受動喫煙が原因で肺がんや心臓病で死亡する成人は毎年約6800人に上り、うち約3600人は職場での受動喫煙が原因との推計値を発表している。
東京都目黒区の商店街にある居酒屋。店の入り口には「喫煙できます」と記されたステッカー。全部で17席のこぢんまりした店内は21日夜も、常連たちのたばこの煙でもうもうとしていた。
店長の男性(70)は国の全面禁煙に向けた動きに「店内が狭く、喫煙室設置のスペースがない。客の手前、マスクを着けるわけにもいかない」と渋い表情。受動喫煙対策として換気や浮遊粉じん濃度で基準達成を求められていることにも「国にやれと言われればやるしかないが、これ以上コストはかけられない」。
客の男性(49)は「友人の中には居酒屋でも禁煙の店を探す人もいる。たばこを吸う者は肩身が狭い」と首をすくめた。