Lesson208


喫煙による「肺の生活習慣病」 COPD


あなたの処方箋:COPD 喫煙による「肺の生活習慣病」

 札幌市のイベント会場に昨年10月、高さ5メートル、幅5・8メートルの巨大な肺の模型が登場した。COPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)啓発のため、製薬会社が製作し、ギネスにも認定された。正面はピンク色だが、裏側に回ると、組織が壊れ、どす黒く変色した状態に。一目瞭然の病変は、来場者の度肝を抜いた。

 私たちの呼吸は、のどの奥にある気管支が細気管支へと枝分かれし、先端にある肺胞という組織で酸素と二酸化炭素を交換して成立している。COPDは、細気管支や肺胞が炎症を起こし、呼吸機能がゆっくりと低下していく病気だ。せきやたんが毎日のように続き、次第に呼吸が困難になっていく。

 従来、慢性気管支炎や肺気腫と呼ばれていた疾患をまとめて、01年に国際ガイドラインに明記された。患者の90%以上は喫煙が原因とされ、長期の喫煙習慣が数十年後に発症につながる「肺の生活習慣病」ともいわれる。

 厚生労働省の調査(08年)によると、治療中の患者数は17万3000人。しかし01年に、40歳以上の男女を対象に、福地義之助・順天堂大客員教授らが行った大規模疫学調査で、推定患者数は500万人以上とされ、未治療の患者が多いことが問題となっている。09年の日本人の死亡原因では、全体の10位の約1万5000人だが、WHO(世界保健機関)は20年には世界の死亡原因の3位に上昇すると予想する。

 未治療患者が多い理由の一つが認知度の低さだ。福地客員教授は「息が切れる人はCOPDの可能性があるが、多くは『年のせい』と片付けてしまう。年のせいでは息切れは起こらない。肺がんと同じくらい恐ろしい病気だ」と指摘する。

 宮城県利府町に住む菅田方南(まさみ)さん(68)は06年ごろから、かぜが治った後もたんが出続けることが気になっていた。09年秋ごろからは、就寝時に息苦しさを感じるようになり、その頻度は次第に増していった。10年夏に呼吸のしにくさを自覚し、仙台市の病院の人間ドックを受診した。

 肺活量測定や胸部エックス線撮影の結果、医師は「正常と病気の境界ぐらい。かぜだけはひかないように」と説明し、薬の処方はなかった。しかし症状はその後も改善しなかった。「ほかの病気では」と心配になり、独力で調べた日本医科大呼吸ケアクリニック(東京都千代田区)で、木田厚瑞(こうずい)教授(呼吸器病学)の診察を受けた。

 肺機能検査の結果、「軽度の慢性気管支炎に肺気腫を合併したCOPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)」と診断された。現在は月1回、宮城県多賀城市の呼吸器クリニックに通い、気管支拡張の吸入薬の処方を受けている。「呼吸も楽になったし、病名が分かったことで気持ちも落ち着いた」と菅田さんは話す。

 菅田さんの場合のように、かかりつけの地域の開業医でCOPDが見逃される例は少なくない。その理由について木田教授は「医師にCOPDの知識がないため、高血圧などの循環器系疾患と診断してしまうケースが多い。肺機能検査に使う機器『スパイロメーター』も普及していない。機器があっても使えない医師も多い」と指摘する。

 菅田さんは喫煙歴48年。「COPDと診断されて禁煙したが、少しずつ悪化し、数十年後に発症することをもっと早く知っていればと後悔している。喫煙歴のある人に毎年肺機能検査をするなど、この病気の怖さが伝わる体制を作ってほしい」と話す。

(2011年1月17〜18日 提供:毎日新聞社)