たばこ問題は、自分は吸わないからといって安心できるものでもない。他人のたばこの煙をいや応なく吸い込む受動喫煙の影響があるからだ。たばこ規制を考える上でも重要なポイントになる。
受動喫煙で肺がんリスクが高くなるという最初の報告は、1965年に始まった当時の国立がんセンターの平山博士らの大規模疫学研究によるものだ。
たばこを吸わない女性を、夫の喫煙状況でグループ分けして、17年の追跡期間中の肺がんによる死亡率を比較した。夫が1日20本以上たばこを吸う女性の肺がん死亡リスクは、夫が非喫煙者の女性の約2倍だった。
ただし、この研究では他のリスク要因の影響を取り除いていない。時代的にもすんなりとは受け入れられなかった。その後、欧米を中心に数多くの研究が蓄積されることになった。
2002年、世界保健機関(WHO)の傘下にある国際がん研究所(IARC)によって、受動喫煙と肺がんの関連は確実と判定された。たばこを吸わない女性の肺がんリスクは、夫からの受動喫煙で24%、職場では20%の上昇となっている。
われわれの疫学研究では、2万人の女性を約10年追跡し、受動喫煙と乳がんとの関連性を調べた。
非喫煙女性の受動喫煙状況を、家庭(10年以上一緒に住んでいた人の中に、たばこを定期的に吸っていた人がいたかどうか)、家庭以外(職場などで1日1時間以上、他人のたばこの煙を吸う機会があったかどうか)に分けて、各グループで乳がんの発生リスクを比較した。
閉経前の女にの限定すると、どちらかの受動喫煙のあった人のリスクは2.6倍だった。乳がんの原因は閉経前と閉経後で違い、たばこの影響はホルモンの分泌が盛んな閉経前で表れやすいと考えられる。
たばこの煙には、多くの発がん物質が含まれている。自分で吸わなくても、たばこの煙を吸えば、がんのリスクが高くなると考えるのは理にかなったことである。
(国立がんセンター予防研究部長 津金 昌一郎)
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