国際がん研究機構は、1972年から、900以上の様々な物質について、人への発がん性評価を実施し、成果を出版している。73年に刊行した2冊目の評価で、はじめてアスベストを取り上げた。アスベスト鉱山労働者やアスベストを扱う労働者に、肺がんや悪性中皮腫が発生する可能性があるだけでなく、鉱山周辺住民や労働者の家族に悪性中皮腫が発生している事例が記されている。
曝露(ばくろ)からがん発生までに30年の潜伏期間があることや、喫煙がそのリスクを増強することも紹介している。77年の再評価では、アスベストが消化管や喉頭(こうとう)のがんのリスクである可能性が追加された。また、どの程度まで曝露レベルを抑えれば、がんのリスクにならないかについては、現時点では評価できないとした。
87年の再々評価で、アスベストを確実な人への発がん物質として分類した。有害であることが明白になった物質を使い続けるには、疫学研究に基づく評価でリスクを見極めなくてはならない。
欧米では、疫学研究が精力的に実施され、低濃度曝露でもアスベスト関連の疾病リスクがあることや、喫煙との相互作用などがわかった。
悪性中皮腫はまれながんで、アスベスト関連がんと位置づけられる。米国では、比較的早期に対策がとられた結果、現在、悪性中皮腫発生のピークを迎えているという。一方、日本のピークは20年先と推測されている。
たばこで、アスベストによる中皮腫のリスクは変わらないようだが、肺がんリスクは相乗的に高まることが知られている。79年に発表になった米国のデータによれば、肺がんリスクは喫煙で10倍、アスベストを扱う職業だと5倍高くなり、両方が合わさると50倍とされている。
過去にアスベストに曝露したことがある喫煙者の肺がんリスクは、禁煙で確実に下がる。少なくとも、禁煙の年数が長くなるにつれ、アスベストには曝露していないがたばこを吸い続けている人の肺がんリスクを、いずれは下回る。
(国立がんセンター予防研究部長 津金 昌一郎)
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