喫煙率に数値目標 Dr.中川のがんの時代を暮らす/26
わが国のがん対策の要は、07年に施行された「がん対策基本法」です。この法律の趣旨を実現するための具体的な行動計画が「がん対策推進基本計画」で、5年ごとに見直すことが基本法によって定められています。昨年から、僕も委員として参加する「がん対策推進協議会」で、基本計画の見直しが進んでいます。この協議会は、がん患者や家族が委員として参加している点が特徴です。患者の皆さんの思いが、がん対策に反映される仕組みです。
現行の基本計画は、放射線療法・化学療法、早期からの緩和ケア、がん登録の三つが重点課題になっています。次期基本計画では、これらに加えて、働く世代や小児へのがん対策、さらに僕の持論である「がん教育」なども課題とされる予定です。
さて、がんの原因のトップは喫煙です。たばこの包装には「肺がんの原因になる」と警告が書かれていますが、喫煙は、ほとんどすべてのがんを増やします。男性の場合、たばこがなくなれば、がん死亡がおよそ3分の1も減ります。10年の成人の喫煙率は19・5%と、基本計画が作られた07年の24・1%から5ポイント近く減りました。しかし、男性の喫煙率は、32・2%(10年)と諸外国と比べて依然高い水準です。
たばこ対策に関して、今の基本計画は、「未成年者の喫煙をなくす」と書いているだけで、目標に具体性がありません。次期計画は、「10年後の喫煙率を12・2%に減らす」と、明確な数値目標を盛り込みます。
たばこは、吸う本人だけでなく、周囲の人を巻き込みます。たとえば妻がたばこを吸わなくても、夫が1日1箱以上吸うと、肺腺がんの危険は2倍以上になります。「間接飲酒」が存在しない酒との大きな違いです。
次期基本計画では、受動喫煙の機会を減らすことも目標に掲げます。現在、飲食店での受動喫煙率は約50%、家庭は約11%ですが、22年までにそれぞれ15%、3%まで減らし、行政機関と医療機関は0%を目指します。また20年までに受動喫煙のない職場を実現する目標です。たばこに関して数値目標を初めて示した基本計画の内容が実現されれば、がんは大きく減るはずです。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)