◇たばこ原因で呼吸困難
◇「陸で溺れるよう」
COPD(慢性閉塞(へいそく)性肺疾患)は、肺が炎症を起こし、気道が狭くなる病気だ。以前は「慢性気管支炎」「肺気腫」と呼ばれていた病名が整理され、2001年からこの病名となった。息苦しさとせき、たんが主な症状で、そのつらさを経験者は「陸上で溺れているよう」と表現する。
患者の90%以上が喫煙歴がある人で、原因のほとんどはたばこだ。このため、治療は完全禁煙から始まる。日本医科大呼吸ケアクリニックの木田厚瑞所長は、「症状が楽になると隠れてまたたばこを吸い始める人もいるが、禁煙は絶対条件」と強調する。完全禁煙させるために、保険適用となっている経口禁煙補助薬を使う場合もある。
気道を広げて呼吸を楽にする治療薬も種類が増えてきた。気管支拡張作用のある薬では、1回の吸入で作用が24時間持続する「長時間作用性抗コリン薬(LAMA、ラマ)」、同じく12時間持続の「長時間作用性β2刺激薬(LABA、ラバ)」が代表的だ。LABAに炎症を防ぐステロイドを配合した吸入薬や、吸入せずに皮膚に貼り付けて使うLABAも登場。飲み忘れをしやすい高齢者でもきちんと服用できるという効果がある。
◇投薬と運動で改善
薬物療法で症状を緩和させるのと同時に、運動も重要となる。木田さんは「呼吸困難を改善するには、肺を動かす横隔膜の筋力をつけることが必要だが、横隔膜だけを鍛えることはできない。全身の筋力、中でも上半身全体を鍛えなければならない」と話す。
運動療法は、6分間に歩ける距離を測るテストで運動能力の低下度合いを調べてから、患者に合わせて指導する。適しているのは、ダンベルの上げ下げなどの筋力トレーニング。ゆっくりとした動きで運動量も自分で調節できる。ゴルフのスイング時のように瞬発力を必要とする運動は不適切だ。
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会などは03年、患者向けの運動マニュアルを作成した。東京都墨田区の中村病院では、医師、理学療法士を中心とした専門スタッフが入院、外来の患者80人に、マニュアルに沿った包括的呼吸リハビリテーションを指導している。症状の重い人には、円滑に呼吸するための呼吸方法や筋肉マッサージを中心に行い、比較的軽い人は踏み台昇降など器具を使った運動に取り組む。同病院の理学療法士、輪違弘樹さんは「体を動かさないと体力が落ちて、さらに息苦しさが増す『負のスパイラル』に陥ってしまう」と警告する。
酸素ボンベを携行し、チューブで酸素を吸引する在宅酸素療法を受けながら運動をする方法もある。酸素吸入器は保険対象になっている。木田さんは「酸素吸入は末期の命をつなぐものと誤解されている。酸素不足を補いながら運動能力を上げることで、病気でも快適に生活できるようになる」と強調する。
COPD患者の9割は軽症・中等症だ。こうした患者が気をつけなければならないのが、急激に体調が悪化する急性増悪。感染症がきっかけになることが多いため、インフルエンザや肺炎球菌ワクチンの接種による予防が必要だ。
近年は成人向け肺炎球菌ワクチンに対する関心が高く、昨冬は品薄状態に陥った。しかし肺炎球菌ワクチンは1度接種すれば効果が5年持続するため、冬場よりも、気候のいい時期に接種した方がいいという。また子どもが感染を媒介するケースも多いため、孫などと同居している高齢患者は注意が必要だ。
概念が新しいCOPDは、医療関係者でも認知度が十分ではない。そのために適切な治療を受けられないケースも多い。木田さんは「まずはかかりつけ医を受診して、呼吸器内科の専門医を紹介してもらうといい」とアドバイスする。【MMJ編集部・高野聡】 |