乗馬を40代、50代から始める人が増えてきた。馬の動きに合わせてバランスを取っているだけで立派な有酸素運動になり、足腰に負担をかけずに脂肪燃焼効果が期待できるという。体力に自信がなくても大丈夫。今度の週末、近くの乗馬クラブで一度体験してみてはいかが。
4月中旬、小雨がやんだ日曜日の昼下がり。東京乗馬倶楽部(東京・渋谷)に次々と中高年の男女がやってきた。30分間の体験乗馬をした大楽真理子さん(55)は「生まれて初めて馬に乗ったが、揺られているだけで汗ばんだ」と満足そうだ。
ひところ20代の若い女性が中心だった乗馬が中高年にも人気なのは、馬から落ちないよう馬上でバランスを取るだけでも、無理のない全身運動になるからだ。欧州では古くから健康増進目的で老若男女が乗馬を楽しむ。東京乗馬倶楽部でも今は初心者コースのおよそ半数が40代以上という。
なぜ馬に乗っているだけで全身運動になるのだろうか。
東京大学の林良博教授は「馬の動きは予測がつかない。バランスをとるには、腹筋や背筋、太ももの筋肉など普段あまり使うことのない筋肉も使わなければならず、相当な運動になる」と説明する。
しかも乗馬は馬にまたがっているので、ひざや腰にあまり体重がかからず、ジョギングやエアロビクスなどほかの運動より負担が少ない。初心者には必ずインストラクターがつくので安心だ。障害者や腰痛予防のために「乗馬療法」というリハビリ方法もある。
馬の動きに合わせてバランスをとるだけで生活習慣病の予防につながりそうなこともわかってきた。
欧州の乗馬療法をヒントに開発され松下電器産業が販売する乗馬型健康機器「ジョーバ」。月間4000台も売れる人気商品だ。
製造を担当する松下電工は名古屋大学と共同研究で乗馬型運動によって体内の糖をどれくらい代謝できるか測定した。1日2回、15分ずつジョーバを使うと、何もせずじっと安静にしている場合よりも1.6倍の糖が消費されていた。ウオーキングを1時間したのと同じ効果があることがわかった。
さらにインスリンなどの血糖値を下げる薬を使用していない糖尿病患者に、ジョーバを1日20分以上、3カ月間継続して使ってもらった。するとインスリン抵抗性と呼ぶ糖尿病の目安となる指標が改善し下がったという。
心のリフレッシュにつながるのも乗馬の魅力だ。馬は犬と同じくらい人の気持ちを理解する能力がある動物といわれる。30代後半から乗馬を始めた安藤淳子さんは「ジャズダンスやバレエはやめてしまったが、馬との一体感が心地よく乗馬を続けていられる」と言う。東京乗馬倶楽部に通い始めて4年がたつが、体力がついたおかげか風邪をひいてもすぐに治るようになったという。
乗馬を始めたくなったら、まずは一度体験してみること。たいていどこの乗馬クラブも、ヘルメットなどの装具を貸してくれる。気楽に乗馬気分を味わうことができる。クラブによって馬術を本格的に教えるところから庶民的な雰囲気のところまでまちまち。いくつか回って自分に合ったところを選びたい。
郊外のクラブや市町村のイベントでは自然の中を馬と散策する「ホーストレッキング」も充実してきた。初心者用に訓練した小型のポニーがいれば、初めてでも30分ほどの講習のあとに散策が楽しめる。旅先などで挑戦してみるのもよいだろう。
(北松円香)
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