白人は日光を浴びすぎると皮膚がんが増えますが、日本人には当てはまりません。逆に、飲酒で顔が赤くなる遺伝子を持たない白人にとって酒は「百薬の長」ですが、国民の約4割が赤くなる遺伝子を持つ日本人は、飲み過ぎるとがんにつながる恐れがあり要注意です。
たばこによる発がんは、白人の方が多い傾向にあります。たとえば日本人の場合、喫煙者の肺がんのリスクは、たばこを吸わない人の4〜5倍に増えますが、欧米では10〜20倍になると言われます。
この理由は解明されていないものの、可能性として日本人は受動喫煙の機会が欧米より多いことが考えられます。つまり、日本人の場合、本人がたばこを吸わなくても、日々の受動喫煙によってがんのリスクが高まってしまっているため、喫煙者との差が欧米ほどないというわけです。
喫煙はがんの原因のトップです。たばこがこの世からなくなれば、男性のがんの3割がなくなります。また「受動飲酒」はありませんが、たばこは受動喫煙でもがんが増えるため、「自業自得」だけではすみません。受動喫煙によって自らが望まない不本意な健康被害を受けるという点では、原発事故に近い性質を持つと言えるでしょう。実際、受動喫煙は年間100ミリシーベルト程度の被ばくに相当します。
たばこの先から出る副流煙には、タール、ニコチン、一酸化炭素、ベンゾピレンといった発がん物質が、本人が吸う主流煙より3〜5倍も多く含まれます。たばこを吸わない妻が、1日1箱以上吸う夫と暮らしていると、妻が肺腺がんになる危険は2倍になります。
受動喫煙はがんのほか、心筋梗塞(こうそく)も増やし、親が喫煙者の場合、赤ちゃんが眠っている間に突然死亡する「乳幼児突然死症候群」の発症率が5倍近くに高まります。
受動喫煙が原因で死亡する人は年間6800人と推計されます。交通事故による年間死亡(10年は4863人)をはるかに上回ります。
経済対策だけでなく、受動喫煙対策も進めてもらいたいと思います。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)