Lesson33 


朝起きれない/日中も眠い
夜更かしやめ 日光を浴びる


現代社会は、夜更かしの誘惑で満ちあふれている。受験勉強や夜勤でやむを得ず夜型の生活を強いられる人も多いだろう。ただ、昼間に活動して夜眠るのが人間の本来の姿。毎日、夜遅くまで起きている生活を続けると、体内時計のリズムが壊れ、病気になりやすくなる。

A君は受験勉強に精を出し、念願の志望大学に進学を果した。好きなことを学べると張り切っていたが、どうしても朝起きられず、遅刻する日が多い。「何とかちゃんと起きたい」という意志はあるが、目覚ましが鳴っても気づかない。テニスサークルの早朝練習にも、寝坊のせいで参加できなくなってきた。家族に無理やり起こしてもらっても、午前中は眠気がひどく物事に集中できない。

充実した大学生活を送るはずだったA君。どうしてこうなってしまったのか。

原因の1つと考えられるのが体内時計の乱れだ。受験のため夜更かしを続けた結果、眠りに入る時間と目覚める時間が後にずれてしまい、そのまま固定されてしまった可能性がある。「睡眠相後退症候群」と呼ばれる立派な病気だ。

滋賀医科大学の大川匡子教授らの調査によると15−59歳の0.13%がこの障害を抱える。リズムが乱れやすい高校生に限ると、患者は0.4%という報告もある。

すぐに深刻な病気につながるわけではないが、日中眠くて仕事や勉強に集中できず、社会生活に悪影響が出ることになる。吐き気や下痢など体の異変が現れる場合もある。大川教授は「決して怠け癖ではない。睡眠外来をかかげる病院などで早く診てもらうこと」とアドバイスする。

問診などで朝起きられない原因を見極め、睡眠相後退症候群と診断されると、卓上型蛍光灯のような照射装置で朝、目覚めてから2−3時間、2千ルクス以上の光を浴びる治療を受ける。睡眠中に分泌されるホルモン「メラトニン」を就寝前に服用する場合もある。いずれも体内時計の「針」を元に戻すのに効果的とされる。光照射装置は4万−5万円程度、メラトニンの場合は1カ月の薬代が3千円程度かかる。

夜更かしを続けたからといって、すべての人が睡眠障害になるわけではない。「体内時計の乱れやすさには個人差があるようだ」とむさしクリニック(東京都小平市)の梶村尚史院長は指摘する。子供のころから宵っ張りだった人は、乱れやすい傾向があり、特に注意が必要だという。

体内時計を正しく保つには、発症のきっかけの1つといわれる夜更かしを続けないことが何よりも大切だ。人間は昼間に行動し夜眠りにつくよう、体内時計がホルモン分泌や体温、血圧など生体内の機能を制御する。周期は24時間よりも約1時間長く、だらだら過ごすとどうしても夜更かしするようになる。

「目が覚めたら太陽の光を浴び、体内時計のスイッチをオンにしよう」――。厚生労働省の健康づくりのための睡眠指針検討会(座長は高橋清久・前国立精神・神経センター総長)が2003年にまとめた報告書は、こう指摘している。日光を浴びると体内時計はリセットされる。

体内時計の本体は脳にある「視交叉(こうさ)上核」。脳の松果体からメラトニンが分泌され視交叉上核に作用、体内時計を24時間周期に保つ。

メラトニンの分泌量は目から入る光によって調節される。早く目覚めても、暗い室内でふとんにもぐり、ぐずぐずしていると体内時計のリズムが乱れるもとになる。このほか、日中は活動的に過ごし、夜はゆったりするといった生活パターンがベストだ。

夜勤や交代勤務がある職場ではどうしても夜型生活をまぬがれない場合もある。春に職場が変わり、夜型生活を始める人は自分の体調の変化を注意深くチェックし、眠れないなどの症状が現れたら、早めに専門医を受診するのが望ましい。

また、夜中に仮眠をとったり、本来は寝ているはずの深夜帯に食事をするのを控えたりすれば、リズムを乱さないために役立つ。 (奥野由美子)

体内時計を正しく保つのに有効な行動

・夜は明るすぎない照明に

・ふとんの中でいつまでもぐずぐずしない

・起きる時間、朝食は規則正しく

・日中、戸外で活動する時間を取る

・早起きするため無理に早寝する必要はない


日本経済新聞 2006.3.19