ガンや心筋梗塞、脳内出血、肺塞栓を発症して毎月100万以上の医療費を払うようになってから、嘆いても遅い
くらしナビ・医療・健康:受動喫煙防止、家庭に課題 公共の場で進む一方、強制力なく対策遅れ
乳幼児突然死症候群(SIDS)の原因にもなるという受動喫煙。2003年に施行された健康増進法に基づき、飲食店など公共的な施設では、原則的に全面禁煙が浸透しつつある。一方、乳幼児を抱える家庭など、プライベート空間でどのように徹底するかが課題になっている。
「家人は私の子どもを、とてもよくかわいがってくれます。しかし、あやす時など、同じ部屋でたばこを吸っているのです。いくら言ってもやめてくれません」
昨年末、乳児を育てる30代の母親から毎日新聞に一通の投稿が届いた。たばこの煙が乳幼児に悪影響を及ぼすことを知っている母親は、非常に気をもんでいるという。母親は「子どもの健康を守るのは大人の責任なのに」とも訴える。
●大量の化学物質
国立がん研究センターたばこ政策研究部の望月友美子部長によると、たばこの煙には分かっているだけで約7000種の化学物質が含まれる。ニコチンやベンゼン、カドミウムなど200種は、発がん性や呼吸器などに悪影響を及ぼす物質として知られている。また、両親が喫煙する場合、SIDSになる確率が4倍になるとの国の調査もある。ほかにも、慢性呼吸器疾患▽肺機能の成長抑制▽アトピー性皮膚炎▽中耳炎――などになる危険性が高まる。妊婦が受動喫煙すると、胎児が死産することや、先天性奇形、小児がんなどのリスクもあるという。
胎児や乳幼児がたばこの煙から悪影響を受けるルートは3通りある。妊婦が直接吸う場合(ファーストハンドスモーク)▽近くの喫煙者が出す煙を吸う場合(セカンドハンドスモーク)▽喫煙者が部屋にいなくても、煙に含まれる化学物質がカーペットや壁紙、ソファに付いた部屋にいる(サードハンドスモーク)――だ。子どもは自分の意思で煙から逃れることは難しく、いや応なく受動喫煙の環境に置かれる。このため、周囲の喫煙者が環境を守ることが求められる。特に、サードハンドスモーク対策では、たばこ由来の化学物質が付いた家具などの掃除などが欠かせない。
望月部長は「たばこはいわば、小さな化学工場。日本は施設や家庭での禁煙が進んでおらず、まだら状態だ。喫煙は他者に危害を加えるという認識を持ってほしい」と強調する。
11年の国民健康・栄養調査によると、全国約5500人に家庭での受動喫煙状態を聞いたところ、「ほぼ毎日」9・3%▽「週に数回」3・1%▽「週に1回」1・9%▽「月に1回」2・5%▽「全くなし」83・2%――だった。頻度はさまざまだが、2割弱は家庭での受動喫煙を経験しており、年代別には、子育て世代の20~30代に高い傾向が見られた。
●国は低減目標設定
国は「受動喫煙が死亡や病気を起こすことは科学的に明らか」として、12年度から5年間のがん対策推進基本計画で、22年度までに、受動喫煙を行政・医療機関0%(11年現在で行政機関7%、医療機関5%)▽飲食店15%(同45・1%)――に下げる目標を掲げた。家庭では22年度までに3%に下げるのが目標だ。
ただし、厚生労働省が公共的な施設に対して原則全面禁煙を求めた通知にも罰則はなく、家庭内での徹底を求めることは、さらに難しい。国立がん研究センターによると、欧米では、子どもを同乗させた車内での喫煙を規制するなどの対策も出始めている。厚労省がん対策・健康増進課は「国内では規制という考え方ではなく、受動喫煙の害の普及啓発を地道に続けるしかない」と話す。【渡辺諒】
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◇受動喫煙で発症の危険性が高まる主な病気
<胎児>死産、先天性奇形、小児がん
<乳幼児>乳幼児突然死症候群(SIDS)、ぜんそく、慢性呼吸器疾患、肺機能の成長抑制、中耳炎、急性呼吸器疾患、アトピー性皮膚炎
<小児>肺炎、中耳炎、脳腫瘍、白血病
<成人>喉頭がん・肺がんなどのがん、心筋梗塞(こうそく)、くも膜下出血、脳血管疾患、大動脈瘤(りゅう)
※国立がん研究センターなどの資料を基に作成