Lesson393

電子たばこ急増
ニコチン液、個人輸入し吸引 年齢制限なし、少年も来店



 ニコチン入りの「電子たばこ」を利用する人が急増している。法の網にかからない個人輸入でニコチンを入手し、吸引器で加熱して白い蒸気を吸っている。たばこのような年齢制限もない。高校生の10人に1人が経験者という米国では健康への悪影響が指摘され、規制の動きも出始めた。

 4月26日夜、東京・原宿の小さなクラブ。50人近い男女が集まったパーティー会場は電子たばこから漂う蒸気で白くかすむ。その一角にあるテーブルを囲む5、6人の男性はみな、ニコチン入りを吸っている。

 愛好家が集うインターネット掲示板を通じた知り合いだ。いずれも2、3年前にたばこから乗り換えたという。「たばこよりニコチン切れの渇望感が薄くて楽。ニコチンの量も減ってきた」「たばこは1本が燃え尽きれば区切りになり、仕事に戻れる。電子たばこは吸い続けてしまう」。男性たちは語りあった。

 ニコチンは薬事法で医薬品にあたり、無許可の販売や譲渡が禁じられている。このため男性たちは海外の業者からニコチン入り溶液を個人輸入している。薬事法に引っかからない吸引器は国内で買うことが多い。

 販売業者は昨年ごろから国内で急増しているという。このパーティーも販売店を開いたばかりの男性(35)が催し、吸引器を50本近く売った。

 複数の販売業者によると、電子たばこは4年前のたばこ増税前後、禁煙目的のニコチンのないものが国内で流行した。今回のブームは2度目だが、多くの利用者がニコチンを手に入れて吸っているという。

 水戸市の県道沿いにある古い木造の茶葉店。その隅に電子たばこの吸引器や関連部品が並ぶ。「沼田茶舗電子タバコ店」だ。店主の沼田成昭さん(39)が2010年7月に始めた。主にネット通販で月800万円を売る。1年前の10倍だ。

 当時、欧米で凝ったデザインの吸引器が流行していた。昨年5月から本格的に輸入し、品ぞろえを充実させると注文が急増した。北海道から長距離トラックの運転手も買いに来た。

 気がかりもある。大型連休中の夜、制服姿の少年たちが店番の母親に「電子たばこの吸引器を売ってくれ」と言ってきた。「大人向けの商品だから」と断ったが、未成年が吸うことを禁じる法的根拠はない。「ルールの範囲で販売したい。未成年に対する法整備を進めてほしい」

 未成年者喫煙禁止法は20歳未満の喫煙を禁じている。ニコチン入り電子たばこは法律上のたばこか。警察庁は「一概に言えない」。たばこ事業をまとめる財務省は「たばこには当たらない」という見解だ。厚生労働省は「財務省がたばこに該当すると言ってくれないと動きようがない」とする。

■市場拡大の米、規制も

 米国ではニコチン入り電子たばこが市販されている。米疾病対策センター(CDC)によると成人喫煙者の2割、高校生の1割が電子たばこ経験者だ。

 市場調査会社「ユーロモニター」は昨年8月、米国のたばこの売り上げが過去6年で22%減ったと公表した。また、電子たばこの13年の売り上げは10億ドル(約1千億円)と前年から倍増すると予想。今後10年でたばこを抜くという専門家の見解も紹介している。

 電子たばこを販売するのは西海岸の中小独立系メーカーが中心だが、たばこを寡占販売する大手も触手を伸ばす。世界首位のフィリップ・モリスは今年から参入を表明。2位のブリティッシュ・アメリカン・タバコは12年12月に開発・販売会社を買収。日本たばこ産業も参入を検討する。

 電子たばこは、たばこより害が少ない代替品か。

 米ボストン大公衆衛生学部のマイケル・シーゲル教授は「害が少なく禁煙の可能性も高い」と評価する。

 たばこの煙はタールや一酸化炭素など約250種の有害物質が確認されている。電子たばこの化学物質はたばこより少なく、健康リスクも低いとの見方だ。「たばこと同じ規制をすれば変化の流れをつぶし、たばこを守るだけだ」

 これに対し、カリフォルニア大のスタントン・グランツ教授らは、副流煙を含む電子たばこの蒸気から人体への悪影響が指摘されている10種類の化学物質が検出されたと発表。「『害のないたばこ』ではない」と釘を刺す。世界保健機関も「電子たばこは安全と証明されていない。ニコチン依存となって喫煙にもつながりかねない」という立場だ。

 規制も相次ぐ。米食品医薬品局(FDA)は4月24日に電子たばこの規制法案を提示。たばこと位置づけて18歳未満への販売を禁じ、売る際にFDAの承認が必要とする内容だ。ニューヨーク市は4月29日、公共の場所での利用を条例で禁止。ミネソタ州は10年からたばこと同様に課税している。 (錦光山雅子、小室浩幸)

■早急に手立てを

望月友美子・国立がん研究センターたばこ政策研究部長の話 50年前、米国が初めて喫煙の健康被害を公式に認めて以来、各国が公共の場での禁煙や広告禁止、増税などで喫煙率を下げてきた。その隙間を縫って登場した電子たばこが世界で急速に広がるなか、規制が後手に回り、未成年も簡単に手に入れられる国が多い。日本でも本格的に出回る前に早急に手立てを講じるべきだ。

◆キーワード

<電子たばこ> 吸引器に溶液を入れ、コイルを巻いた加熱器で熱し、蒸気を吸い込む。溶液には好みに応じてニコチン、菓子や果物のにおいがする人工香料、蒸気を増やすグリセリン、のどごしを良くするプロピレングリコールなどを入れる。厚生労働省は薬事法に基づく都道府県への通知で、個人が一度に輸入できるニコチン溶液を1カ月分の個人使用量(120ミリリットル相当)と示している。吸引器販売業者によると、この量の欧米製の相場は1万2千円程度。吸引器は数千〜数万円で買える。


2014年5月15日 提供:朝日新聞