「他人に被害を及ぼす可能性がある限り規制すべきだ」「化学的に健康影響は証明されておらず規制する根拠はない」――。米国名ででは半ばけりがついている間接喫煙の健康影響の論争が国内ではまだ続いている。厚生省が2月に発足させた「21世紀のたばこ対策検討会」では2回開かれた会合で、専門家の意見は2分したままだ。
同省は昨年度の厚生白書で初めて間接喫煙による健康被害に言及した。米環境保護局(EPA)の報告書を引用し「環境中のたばこの煙は発がん性が明らかであり、疫学的な推計によると米国の非喫煙者に年間3千人の肺がん死亡をもたらしている」とした。
外国の報告書を引用せざるを得なかったのは国内で間接喫煙の健康調査がわずかしかなく、調査も十分でないからだ。厚生省はようやく今年度から全国1万人を対象に間接喫煙による健康調査に乗り出すが、その結果がでるまで国内の議論は海外データをもとにするしかない。
間接喫煙の健康被害を抑えるため禁煙区域を広げ、完全な分煙を進めている米国に対し、日本の分煙はまだ緒についたばかり。各省庁や自治体、企業が独自の分煙指針を作成し、具体化し始めた段階だ。ただ、分煙も対策が不十分だと効果は半減しかねない。
労働科学研究所の調査によれば、同一空間で区画を仕切るだけの禁煙室はたばこの煙が拡散するうえ、下手に空調を運転すると煙の濃度が全く同じになってしまう。職場でしばしば実施されている禁煙タイムは喫煙者が禁煙タイム前後に集中的に喫煙するので煙の濃度が高まり、逆効果になるという結果が出ている。
間接喫煙の健康影響については様々な指摘がある。EPAによると、たばこの煙には4千種類以上の化学物質が含まれる。そのうち、くゆらしたたばこから出る副流煙には約40種類の発がん物質があり、間接喫煙により1.胎児の発育2.悪性腫瘍(しゅよう)3.呼吸器4.循環器――などで健康被害の恐れがあるとしている。
発育の影響として新生児の低体重化という調査結果もある。大阪府吹田保健所の島本太香子医師が約1千人の妊婦を調査したところ、間接喫煙の状況にあった妊婦は最大で出世児の体重が200グラムも低かった。新生児の毛髪から多量のニコチンも検出した。
分煙が職場で進んでも家庭の中となると見落とされがちだ。だが、家屋の密閉性がかつてに比べると格段に上がっているので、間接喫煙の影響は無視できない。夫が毎日20本以上たばこを吸う場合、妻が肺がんで死亡する確立は夫が非喫煙者の場合に比べ9割も高くなる。
間接喫煙の健康影響を統計的に探っている深川市立総合病院の松崎道幸内科医長は間接喫煙により心筋こうそくや肺がん、乳幼児突然死症候群(SIDS)などで早死にする人は10万人あたり5千人に上ると試算、対策の重要性を説いている。
健康に良くないと知っていても、たばこがやめられない喫煙者は多い。ただ、非喫煙者が増えるにつれて、たとえ愛煙家でもどこでも好きな時にたばこを吸えるというわけにはいかず、時には我慢せざるを得なくなっている。