Lesson48

禁断症状がウツを悪化させる
抑うつが心疾患患者の禁煙の妨げになる



最新研究によれば、心疾患患者の中には抑うつが禁煙の妨げになっている者がおり、そうした患者には抗うつ薬が有効だと考えられる。
Pauline Anderson


抑うつが心疾患患者の禁煙の妨げになっている可能性が最新研究で示された。
『Archives of Internal Medicine』1月28日号に掲載されたこの研究によれば、心臓事象で入院した患者のうち、うつ症状を持たない患者の禁煙率は症状を持つ患者のおよそ3倍である。

この結果に基づき、喫煙者の中には深刻な健康問題があるにも関わらず喫煙習慣を継続する理由のひとつが抑うつで説明できる可能性があると、筆頭著者であるマサチューセッツ総合病院およびハーバード大学医学部(ボストン)の内科講師のAnne N. Thorndike, MD, MPHが述べている。公衆衛生の取り組みによって全体的な喫 煙率を大きく下げることには成功してきた。「しかし、禁煙しようとしない中核グループが厳として存在する」とThorndike博士は言う。「その者たちが禁煙しようとしない理由を探り、我々は抑うつが大きな役割を果たしていると考えている。」

そうした者にはニコチン補充療法以外のことも必要

今回の研究結果で、心血管疾患(CVD)で入院した患者の抑うつを見つけ出し、それを治療することの重要性が浮き彫りにされた。「重要なことは、そうした患者では禁煙することが本人の健康にとってきわめて重大な意味を持つという点である」とThorndike博士はMedscape Psychiatryに答えて語った。「心血管疾患を有したり、急性事象を起 こした喫煙者を調べてみると、単にニコチン補充を行ってあとは自由にさせることが問題なのではなかった。その者たちの抑うつ症状に対処するか、少なくともその症状を探すことが必要である。」

今回の研究の対象になったのは、1999年10月1日から2002年10月31日までの期間で心筋梗塞、不安定狭心症、冠動脈バイパス移植手術などの心血管系の問題で入院した喫煙者245例である。入院中と退院後の2日後、1、8、12週間後の認知行動カウンセリングのデータを用いて、抗うつ薬でもある禁煙補助薬の塩酸ブプロピオンとプラセボによ12週間の結果を比較した。

抑うつ症状の測定は、21項目の自己報告型の尺度であるBeck抑うつ評価尺度(BDI)を用いて、研究開始時と第2、4、12週の追跡時に行った。今回の研究では、中等度から重度の抑うつを意味するBDI 16点以上だった被験者 がほぼ4分の1(22%)いた。スコアは女性、非白人、一人暮らしの者のほうが高かったが、疾患の重症度との相関は見られなかった。抑うつスコアが低い被験者の平均喫煙数は1日あたり21本だったが、抑うつスコアが高い被験者の平均喫煙数は1日あたり25本だった。

禁断症状がさらにうつにさせる

今回の研究では、易怒性、怒り、短気、不安、集中できない、落ち着きがない、過度にお腹が空く、よく眠れない、渇望感といったニコチン禁断症状の重症度を喫煙者が点数付けした。ふるえ、動悸、発汗、腸の不調といった身体症状についても評価した。BDIスコアが高い喫煙者ほどニコチン依存の点数が高く、渇望感が強く、ニコチン禁断症状の点数が高かった。「このことは、禁断症状が強いほど患者はより強くうつを体験することを示している」とThorndike博士は語った。

ニコチン禁断症状が、CVDの感情的・身体的不具合に組み合わさることが「退院後の再喫煙率が高いことの一因になっていると考えられる」と、著者らは述べている。「こうした喫煙者群においては、ニコチン禁断症状に対する積極的な薬物療法で禁煙率が向上する可能性がある。」

今回の研究では、退院から2週間後、3カ月後、1年後に自己申告、呼気一酸化炭素濃度、唾液コチニン濃度に基づいて、禁煙状況を測定した。禁煙状態が維持される割合は、抑うつスコアが低い患者のほうが、抑うつスコアが高い患者よりも、3カ月後(37%対15%、オッズ比[OR]は3.02)、1年後(27%対10%、ORは3.77)ともに大きかった。

抑うつ患者には抗うつ薬がよく効く

今回の研究では、研究開始時のBDIスコアが高い喫煙者のうちブプロピオン治療を受けた者の方がプラセボ治療を受けた者よりも禁煙率が高かったが(19%対3%)、抑うつが比較的小さい喫煙者はブプロピオンとプラセボによる禁煙率に差がなかった。「ブプロピオンは、抑うつを持たない者よりも持つ者に対してより多くの作用があるようだ」とThorndike博士が語っている。今回の結果は「いかなる意味でも」ブプロピオンの効能を示すものではないが、抗うつ薬が心疾患患者に有効かどうかを詳細に検証する大規模試験を行う必要があることを示している」と同博士は言った。

他の研究によれば、心筋梗塞を起こした喫煙者は、最新の集中カウンセリング介入法を用いても、1年後に喫煙を再開してしまうものが40%以上もいる。「急性CVDを起こした喫煙者のうち、どの者が退院後に喫煙を再開するリスクがもっとも大きいかを明らかにすることが、タバコ治療介入の成功率と心疾患系転帰の改善にきわめて重要である」と著者らは述べている。

この研究は、米国立心臓肺血液研究所(NHLBI)と米国立衛生研究所臨床試験センターからの助成金と、GlaxoSmithKline PLC社からの限定条件なしの研究助成金を受けている。
GlaxoSmithKline PLC社は、試験薬とプラセボも無償で提供しており、NHLBIの助成の期限が切れた後にデータ収集を完了させることにも限定条件なしの助成金を提供した。著者らのうち3名は、資金援助を受けている。Merck & Co., Inc社の 常勤従業員が著者の中に1名いる。2名の著者は、Pfizer Inc社、Sanofi-Aventis US LLC社、GlaxoSmithKline PLC社、Nabi Biopharmaceuticals社との間でさまざまな金銭的関係があることを開示している。その他の著者の開示情報には、関連する金銭的利害関係はない。

(2008年2月1日 記事提供 Medscape)