喫煙はおそらくニコチン離脱症状のために睡眠の質を低下させることが新しい試験で指摘されている
Pauline Anderson
喫煙はおそらくニコチン離脱症状のために睡眠の質を低下させるという試験が米国胸部専門医学会(American College of Chest Physicians)の雑誌『Chest』2月号に掲載されている。
本試験は、喫煙が睡眠に及ぼす影響を明らかにした最初の試験である。以前の試験では、睡眠パターンの変化が喫煙自体によるものか、それとも喫煙の影に潜んだ医学的疾患(心疾患、呼吸器疾患等)によるものかは明らかではなかったと本試験の著者で、ジョーンズ・ホプキンス大学(メリーランド州バルチモア)の肺・救命救急医療部門の医学・疫学准教授であるNaresh M. Punjabi, MD, PhDは述べる。
「信じられないことだが、喫煙と医学的疾患に関してありとあらゆる論文が存在するにもかかわらず、喫煙と脳波(EEG;electroencephalogram)活動に関する研究はほとんどなされていない」とPunjabi博士はMedscape Neurology & Neurosurgeryに 語った。
禁煙の動機付けとなるもう1つの要因
本試験の結果は、喫煙者を納得させて禁煙させるための「動機付けとなるさらにもう1つの要因」となりうるとPunjabi博士は述べた。「予防衛生の見地から、睡眠障害を喫煙に関連した一連の問題に加えることが非常に重要であると考える」
本試験は、大規模な睡眠呼吸障害および心血管系疾患に関する多施設共同試験であるSleep Heart Health Studyの一部であった。この大規模試験の対象となった6400例以上の被験者のうち、1日20本以上のたばこを吸い、基礎疾患がなく、他の基準を満たした喫煙者は40例のみであった。本試験では、これらの被験者と、年齢、性別、肥満度指数(BMI)、人種を一致させた40例の非喫煙者が比較された。
睡眠構築を評価するため、本試験では従来のEEGパターンの視覚的分類ならびに脳波周波数の数学的分析を利用する睡眠時EEGの高度なスペクトル分析が実施された。研究者らは、40組の対応するペアにおいて、自宅での一晩の睡眠パターンを検討した。
喫煙者は浅い睡眠の時間が多い
喫煙者と非喫煙者の間で、視覚的スコアに差は認められなかったが、脳波活動のスペクトル分析から、喫煙者では非喫煙者と比べて平均的にα波の割合が高く(15.6% vs12.5%)、δ波の割合が低い(59.7% vs 62.6%)ことが明らかになった。このことはすなわち、喫煙者では対応する非喫煙者に比べて、浅い睡眠の時間が長く、深い睡眠の時間が短いこということである。
喫煙者における大きい周波数は、速い脳の活動を意味するとPunjabi博士は説明した。「EEGにおける速波は活性化、すなわち深く睡眠していないことを反映するため、睡眠パターンが深い睡眠よりも浅い睡眠に一致する割合が高いことがわかる」
同様に、喫煙者と非喫煙者の睡眠時EEGの相違は時間依存的であると思われ、最大の差は睡眠時間の初期に認められた。ニコチンはドパミン、ノルエピネフリン、セロトニン、アセチルコリン(すべて覚醒状態に関連がある)の放出を刺激し、喫煙者の血中ニコチン濃度は就寝時に最も高いことから、このことは理にかなっていると著者らは指摘している。ニコチンの半減期が約2時間であることを考慮すると、一晩中続く軽微なニコチン離脱症状が睡眠時間後半の睡眠構築にさらなる影響を及ぼしている可能性がある。
以上の結果から「ニコチンが睡眠に及ぼす病態生理学的影響についてのより詳しい知識が得られる」と著者らは記述している。
睡眠構築に対する独立した影響
また研究者らは、被験者に睡眠をモニターした翌日の睡眠について被験者に質問した。非喫煙者の5.0%および喫煙者の22.5%が安らかな睡眠の欠如を報告した。「喫煙者では非喫煙者に比べて、ほぼ4:1の割合で夜間睡眠後の気分についての愁訴が多かった」とPunjabi博士はMedscape Neurology & Neurosurgeryに語った。
周波数が速かった(すなわち、睡眠が浅かった)被験者は、睡眠を安らかと感じる割合が最も低い傾向があったとPunjabi博士は述べた。このことは意外な結果ではないPunjabi博士は付言した。「われわれは、喫煙者では不眠の愁訴が多い傾向があることを知っており、喫煙者は就眠および睡眠の維持に苦労している」
研究者らは被験者にカフェイン・アルコールの摂取について質問し、様々なツールを用いて精神衛生を評価した。自己申告によるアルコール摂取は両群とも同様であり、精神衛生状態も同様であった。喫煙者の方がカフェインを日常的に摂取している割合が高かったが、このことはEEGパワースペクトル分析の結果に関連がなかった。
本試験は、喫煙が「年齢、性別、人種、身体測定値、カフェイン・アルコール摂取、併発疾患、精神衛生状態とは無関係に睡眠構築を変化させる可能性がある」ことを示していると著者らは結論している。
日常的な悪影響
本試験で認められた喫煙の睡眠に対する直接的影響は、喫煙者を減らすための公衆衛生キャンペーンのためのさらなる攻撃材料となると思われる。「喫煙者は安らかな睡眠が得られておらず、このことが喫煙者自身に日常的に悪影響を及ぼす。喫煙者には疲労感があり、翌日に疲れが残り、注意力低下を来たす可能性が高い」とPunjabi博士は述べた。「これらは質の悪い睡眠が日常生活に及ぼす直接的影響である」
本試験は、喫煙者向けの睡眠補助薬の開発に拍車をかける可能性がある。「このことを正しく理解すれば、離脱症状を避けることが可能な方法でニコチン補充療法を各人に合わせて調整することができるだろう」とPunjabiは述べた。
本試験はNational Heart, Lung, and Blood Instituteの支援を受けた。本試験の著者らの情報公開によれば、関連する金銭的関係はないという。
(2008年2月11日 記事提供 Medscape)
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