Lesson73

記憶障害も多くなる?




 

喫煙が中年期の記憶障害のリスクにつながる可能性がある
大規模プロスペクティブ(前向き)コホート研究によれば、喫煙は中年期の記憶障害と認知機能低下のリスクを増大させる。
Marlene Busko

大規模プロスペクティブ(前向き)コホート研究であるWhitehall IIのデータ分析で、喫煙は中年期の記憶障害と認知機能低下のリスクを増大させることが示された。

この知見はフランス国立保健医学研究所(ビルジュイフ、フランス)のS醇Pverine Sabia, MScらが『Archives of Internal Medicine』6月9日号に発表した。

Sabia氏がMedscape Psychiatryに語ったところによれば、喫煙歴のない被験者に比べて喫煙者は、その他の交絡因子で調整しても、記憶試験のスコアが最下四分位域になるリスクが37%高かった(単語20語のうち想起できるのが5語未満である傾向が強かった)。

中年期での認知機能低下

「認知機能低下が始まるのがまさに中年期であるということを考えれば、このリスクはきわめて重要だ」とSabia氏は記している。この年齢層でこうした連関があるというエビデンスは、将来の認知症のリスク因子である症状発現前の認知機能の障害と低下の病理発生に喫煙が関係するという説を支持するものと言える。

人口の高齢化が進み、認知症の高齢者の増加が予測されるので、修飾可能なリスク因子を特定することが重要だと氏は記しており、さらに「今回の我々の結果によれば、喫煙は中年期の認知機能に有害な影響があると言える。(しかし)禁煙から10年経つと、認知機能に対する喫煙の有害作用はほとんどなくなる」とも述べている。「したがって、公衆衛生の広報は全年齢の喫煙者を対象にしなければならない。」

著者らによれば、最近のメタアナリシスにおいて喫煙は認知症のリスク因子であることが結論づけられているが、喫煙と認知機能(思考、学習、記憶)との関連性を調べる研究は、被験者が追跡外来に再訪しなかったり、喫煙関連疾患で死亡する者が多くいるために、困難である。

その反面、中年期でのリスク因子がその後の認知症にある役割を果たすというエビデンスが増えつつある。

禁煙が記憶を損なう?

研究グループは、中年者の喫煙歴と認知機能との関連を調べた。

健康と疾患における社会経済的傾向を検証することを目的としたWhitehall II研究のデータを研究グループは分析した。Whitehall IIの登録者は、1985年から1988年までの調査開始時(第1期)に35歳から55歳であったロンドンの公務員10,308例(男性6895例、女性3413例)である。

Sabia氏によると、認知機能の評価は第5期に行った。この時点での被験者の年齢は45歳から68歳(平均55.5歳)であり、その5年後の第7期での被験者の年齢は50歳から74歳(平均61歳)であった。

第5期には5388例、第7期には4659例から、記憶、推論、語彙、意味的・音声的流暢性の検査で認知機能のデータを得た。

喫煙の評価は、調査開始時と第5期に行った。調査開始時の平均喫煙本数は1日に14本であり、1日に吸う本数が5本未満である者が25%、1日に1箱から2箱吸うヘビースモーカーが25%いた。ただし、氏によると1日に2箱よりも多く吸う被験者は27例しかいなかった。

4つの重要な知見

この研究の重要な知見は4つあると、著者らは記している。

第1に、中年期での喫煙は記憶障害と類論能力低下に連関していた。第5期では、性別、年齢、社会経済的差、健康習慣、健康法で調整すると、現在の喫煙者は喫煙経験のない者に比べて認知機能の成績が最下四分位域に入るリスクが37%大きかった(オッズ比は1.37、95%信頼区間[CI]は 1.10 - 1.73)。

第2に、長期間喫煙していた元喫煙者(研究が開始する前に喫煙を止めた者)は喫煙者に比べて、語彙成績低下と発話流暢性低下のリスクが30%少なかった。

第3に、中年期での禁煙には、飲酒量の減少、身体活動の増加、フルーツや野菜の摂食量の増加といった健康習慣の改善が伴って見られた。

第4に、喫煙者は非喫煙者に比べて、第7期まで(平均追跡期間 17.1年間)に死亡する傾向が大きく、認知検査を受ける傾向が小さかった。このことは、検査を受けていない者の中に認知機能が低下している者が含まれていて、後期中年期における喫煙と認知機能との関係が過小評価されている可能性があることを示している。

他の研究により、軽度の認知障害を有している者は臨床的症状から診断できる認知症に進行する速度が速いことが示されていることから、以上の知見は重要であると著者らは記している。

禁煙するのに遅すぎることはない

「この20年間において、喫煙に関する公衆衛生の知識の広報によって喫煙行動が変化してきた」と著者らは記している。今回の研究に基づき、「公衆衛生の喫煙に関する広報活動は全年齢層の喫煙者に対して継続すべきである」と著者らは結論で述べている。

この研究は、英国医学研究審議会、フランス研究省、欧州科学財団の支援を受けている。Whitehall II研究は、英国医学研究審議会、英国心臓財団、英国保健安全執行部、英国保健省、米国立心臓肺血液研究所、米国立加齢研究所、米国医療政策研究機構、John D. and Catherine T. MacArthur財団中年期能力・経済・健康開発研究ネットワーク(Research Networks on Successful Midlife Development and Socioeconomic Status and Health)の支援を受けている。著者のうち2名が資金を受けている。その他の著者の開示情報には、関連する金銭的利害関係はない。

Arch Intern Med. 2008;168:1165-1173.

(2008年6月12日 記事提供 Medscape )