禁煙は付け足しではいけないことが、最新研究で示される
入院中の禁煙指導はもっと構造的にする必要があることが2つの最新研究で示された。関連論文によれば、中年期の喫煙は余命を短くし、およびQOLを保てる期間を短くする。
Lisa Nainggolan
10月15日】入院中の禁煙指導は多くの場合行き当たりばったりで行われており、もっと構造化すればもっとよい結果が達成できると思われることが、2つの最新研究で示された[1,2]。
Dr Nazeera Dawood(エモリー大学医学部、ジョージア州アトランタ)らの知見によれば、心筋梗塞(MI)後の個人カウンセリングは患者を禁煙させる効果が特にない。病院での禁煙指導と心臓リハビリテーションへの紹介のほうがずっと効果が高いことを、著者らは『Archives of Internal Medicine』2008年10月13日号に報告した。
Dr Nancy A Rigotti(マサチューセッツ総合病院、ボストン)らの同じテーマの関連する総説論文によれば、入院した喫煙者に対する禁煙カウンセリングは、支援的接触が1カ月間を継続すれば効果があり、ニコチン代替療法を提供すれば成功率が上がる傾向がある。
さらに、中年期の禁煙が高齢期でのQOLに影響を及ぼすことが、初めて論文に記載された[3]。これを受けて評論委員のDr David M Burns(カリフォルニア大学サンディエゴ校)は次のようにコメントしている[4]。「喫煙の転帰に関する現行の理解の隙間をこの論文が完全に埋めた。喫煙で余命が短くなることはだいぶ前から分かっていたが、今回の新論文は、短くなった生涯のQOLも低下することを明確にした。喫煙は年齢よりも早く老け込ませることを明確に伝えている。」
禁煙の取り組みはもっと強化されるべき
1つ目の試験でDawood博士らは、「心筋梗塞事象と回復後の転帰に関する前向き登録評価(PREMIER)」研究に参加している米国の医療施設19カ所から、2003年1月から2004年6月までの期間でMI患者2498例を登録した。喫煙行動の評価は、入院中とMIの6カ月後に自己申告によって評価した。
MIで入院した時点で喫煙していた患者834例のうち639例が、MIの6カ月後の喫煙行動について面談で報告を行った。そのうち、6カ月後には喫煙を辞めていた者が297例(46%)いた。
19病院のうち、禁煙プログラムを備えていたのは10病院であった。医療記録に基づいた個人レベルでの禁煙カウンセリングを受けた割合は、禁煙した者(75%)でも禁煙しなかった者(72%)でも変わらなかったが、禁煙プログラムを提供する病院に入院した割合は、禁煙した者のほうが有意に多かった(69%対56%、p < 0.001)。禁煙した者は、退院時に心臓リハビリテーションへの紹介を受ける割合も多かった(63%対47%、p < 0.001)。
多変量で補正後の禁煙のオッズ比(OR)は、退院時に心臓リハビリテーションへの紹介を受けた者(OR 1.80)と、入院患者向け禁煙プログラム提供する病院で治療を受けた者(OR 1.71)が大きかった。しかし医療記録に基づいた個人レベルの禁煙カウンセリングと禁煙とは関連していなかった(OR 0.80)。また、MI入院中にうつ症状を示した患者は、禁煙率が低かった(OR 0.57)。
「今回の知見は、MI後の喫煙行動に関する理解をさらに進め、現在のQOLの評価への取り組みを改善するものだ」と研究グループは述べている。
筆頭著者であるDr Susmita Parashar(エモリー大学医学部、ジョージア州アトランタ)はheartwireに次のように語った。「患者を禁煙させるカウンセリングを医療専門家が単に行うだけでは、6カ月後の禁煙の成功はおぼつかないようだ。カウンセリングを止めろとは言わないが、その他の手法も用いるべきだ。構造化した禁煙プログラムなら強い効果があると思われる。心臓リハビリテーションへの紹介も同様だ。」
禁煙成功の測定項目を適合させる必要がある
Parashar博士はさらにこう述べている。現在、「禁煙カウンセリングの実施を心臓発作治療の質の達成尺度としている組織が複数ある。しかし禁煙カウンセリングは禁煙の予測因子にならず、達成尺度としては禁煙プログラムや心臓リハビリテーションへの紹介を用いるほうが望ましいと思われる。」
博士はさらに続けて言う。「今回の研究によれば、禁煙プログラムや心臓リハビリテーションプログラムには抑うつのスクリーニングと治療も組み入れて、同時に治療することができると考えられる。」
一方、Dr Nancy A Rigotti(マサチューセッツ総合病院、ボストン)らは総説論文の中で、コクランタバコ依存検討グループ(Cochrane Tobacco Addiction Review Group)登録を検索して、入院時に介入を開始して6カ月以上追跡した禁煙介入に関するランダム化および準ランダム化試験を調べたところ、その基準に合致する試験が33本見つかった。
禁煙カウンセリングを入院中に開始し、退院後には1カ月以上の支援的接触を行うと、6カ月後から12カ月後での禁煙率が高まった(プールしたOR 1.65)。退院後の接触回数がそれより少ないとベネフィットが見られなかった。カウンセリングは、入院した喫煙者全員に提供した場合と、心疾患で入院したサブグループに提供した場合には有効であった。カウンセリングに加えてニコチン代替療法を行うと、カウンセリングのみの場合よりも効果が高まる傾向があった(OR 1.47)。
この総説の結果は、国内の病院の治療の質基準にタバコ尺度を含めるとした合同委員会(Joint Commission)とメディケア・メディケイド医療サービス(Centers for Medicare & Medicaid Services)の決定を支持するものだが、「現行のタバコ尺度は、入院中に開始された介入に退院後の支援が連動しているかどうかの評価を取り入れて強化されるべきだと考えられる」と著者らは述べている。
Burns博士は解説記事の中でこう述べている。「入院患者ケアの時間短縮のために禁煙支援がなくなることを防ぐには、こうした支援を付け足しで追加するのではなく、治療提供プロセスの不可欠な一部分として統合すべきである。」
「ここで憶えて欲しい重要点は、入院状況下で禁煙の効果を上げるためには、統合された濃密な支援を継続することが必要だということだ。支援回数が少なければ、それだけ効果を上げることが難しくなる」と博士は結論で述べている。
喫煙は実際に加齢を進める
最後の論文は、Dr Arto Y Strandberg(ヘルシンキ大学、フィンランド)らが実施した、中年期の喫煙が高齢期での健康関連QOLに及ぼす影響を調べた26年間のプロスペクティブ(前向き)研究である。
対象となった健康な中年集団において、中年期での喫煙が、26年後に身体機能尺度で測定したQOLの不良と関連することが分かった。喫煙者の身体機能は、前喫煙者または非喫煙者に比べて悪く、中年期に喫煙したタバコ本数が多いと機能の低下の進み方が大きかった。
「我々が得た喫煙/健康関連QOLの関係の知見は、喫煙は社会に負担を及ぼすという意見を支持するものだ」とStrandberg博士らは述べている。「これで、個人レベルの禁煙が促進されるかもしれない。」
Burns博士は解説記事の中で、喫煙者に禁煙カウンセリングを行っている者ならば、「人間はどうせ何かで死ぬのだし、歳をとってよぼよぼになった時の何年間が短くなったとしても、たいしたことではない」という反応に出あった経験がたいていあると言う。
「Strandberg博士らの論文は、そうした思い込みに痛烈な反撃を食らわせる強力な新情報だ」と博士は述べている。
「ヘビースモーカーは余命が10年短くなるだけでない……なんと言っても、喫煙は年齢よりも早く老け込ませるのだ。若い喫煙者にとってその現実は、太く短く生きるというマッチョなイメージに比べてはるかに疎ましいものだろう。」
Dawood博士らの研究は、CV Therapeutics社の助成金を受けており、共著者のDr John A Spertus(アメリカ中部心臓研究所、ミズーリ州カンザスシティ)がCV Therapeutics社とUnited Healthcare社からコンサルタント料および謝礼を、CV Therapeutics社から研究助成金を受けている。Rigotti博士は、自身の総説に含まれる3つの研究の共著者であり、過去5年間にPfizer社、GlaxoSmithKline社、Sanofi-Aventis社、Nabi Biopharmaceuticals社から研究助成金を受けており、Pfizer社とSanofi-Aventis社のコンサルタントを務めていることを開示している。これらの企業は、禁煙用医薬品の研究・販売を行っている。
出典
1. Dawood N, Vaccarino V, Reid KJ, et al. Predictors of smoking cessation after a myocardial infarction. The role of institutional smoking cessation programs in improving success. Arch Intern Med 2008; 168: 1961-1967.
2. Rigotti NA, Munafo MR, and Stead LF. Smoking cessation interventions for hospitalized smokers. A systematic review. Arch Intern Med 2008; 168:1950-1960.
3. Strandberg AY, Strandberg TE, Pitkala K, et al. The effect of smoking in midlife on health-related quality of life in old age. A 26-year prospective study. Arch Intern Med 2008; 168:1968-1974. 4. Burns DM. Live fast, die young, leave a good-looking corpse. Arch Intern Med 2008; 168:1946-1947.
(2008年10月15日 記事提供Medscape
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