メタボリックシンドローム 増える「メタボ合併高血圧」

食生活の変化によってメタボリックシンドローム(内臓脂肪症候群)を合併した高血圧患者が増加している。自覚症状がないからといって放置すると、心筋梗塞や脳卒中などの発症リスクが高まるという。札幌医科大学が北海道で実施してきた「端野壮瞥(たんのそうべつ)町研究」は種々のデータによってこうした病態解明を裏付けてきた。研究を主導する同大の島本和明学長にその予防と治療の最前線を聞いた。(大家俊夫)

 ◆心筋梗塞のリスクも

 −−札幌医大の疫学研究に端野町(現北見市端野自治区)と壮瞥町を選んだ理由は

 島本 気候の差を知るためと同じ人のデータを追跡調査するために人の出入りの少ない農村という条件で、北海道の中でとくに寒い端野町と比較的温暖な壮瞥町を選びました。疫学研究では福岡県久山(ひさやま)町の研究がありますが、北は端野壮瞥町といわれるようにしようと昭和52年にスタートし、肥満と糖尿病、高血圧などの関係について調査を継続して実施しています。

 ◆正常高値でも危険

 −−血圧の正常高値について興味深いデータを発表しました

 島本 血圧が関係した心血管疾患(狭心症・心筋梗塞・心不全)の発症リスクについて、血圧の正常範囲を3つに分け、正常だけどやや高い正常高値血圧(130〜139/85〜89=単位mmHg、以下略)を含めて、平成6年から13年の8年間にわたり男女を対象に調査しました。心血管疾患のリスクは理想的な至適血圧(120未満/80未満)の発症率を「1」とすると、正常血圧(130未満/85未満)で1・5倍、正常高値で2・4倍高くなるのです。正常高値血圧はこれまで安全圏とされてきましたが、この調査は新たな危険因子を示しました。

 −−メタボとの関係ではどうですか

 島本 端野壮瞥町研究では、メタボと心血管疾患の発症リスクの関係も別の研究で浮き彫りになっています。男性780人(平均年齢約60歳)について平成5年から19年の14年間にわたって追跡調査したところ、メタボの人(247人)はメタボではない人(533人)に比べ、心血管疾患を発症するリスクが1・63倍も高いことが判明したのです。女性(メタボ93人、非メタボ700人)でも同様のリスクが3・28倍の高値を示しました。

 この2つのデータが重なり合うように、実際、メタボを合併した高血圧の患者が増えています。メタボ合併とは、内臓脂肪型肥満を合併した高血圧で、高血糖、脂質異常の少なくとも1つの危険因子を有しているもの。正常高値の人はメタボの基準の対象ですから、高血圧の治療においてメタボを考慮する必要があり、日本高血圧学会でもその治療を重要視しています。

 −−なぜ増えているのですか

 島本 食塩過剰に過食、運動不足が重なる現代特有の生活が背景にあります。メカニズムはこうです。メタボ合併高血圧は内臓脂肪細胞から分泌される物質によってインスリンの作用が低下する症状「インスリン抵抗性」に陥る。さらに高インスリン血症が起き、これが続くと高血圧などにつながります。対策はまず食事と運動。塩分を減らす食事を心がけ、運動量を増やすことを勧めています。

 −−改善が難しいケースは

 島本 高血圧治療ガイドライン(JSH2009)で推奨されているメタボ合併高血圧の降圧薬に、レニン・アンジオテンシン(RA)系阻害薬があります。

 ◆2種類の阻害薬推奨

 −−どんな種類がありますか

 島本 推奨されているRA系阻害薬は2種類あります。アンジオテンシン変換酵素(ACE)阻害薬とARB(アンジオテンシンII受容体拮抗(きっこう)薬)です。ARBにもいくつか薬があり、それぞれ特徴があるのですが、とくにメタボ合併高血圧の治療に向いている薬剤は最近、メタボサルタンと呼ばれています。こう呼ばれている薬剤は、選択的PPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)γ(ガンマ)を活性化することによって、元凶であるインスリン抵抗性の改善が期待できるのです。

 自覚症状がないからといって油断すると怖いのがメタボ合併高血圧の特徴です。とくに働き盛りで血圧がやや高めの人には、心筋梗塞や脳卒中などの大きなリスク要因になることを認識してもらいたいですね。すぐに薬ではないけど、生活習慣の改善で不十分だった場合にこうした薬で効果的な治療を始める考えをもっていいと思います。

 

2010.6.21 記事提供:産経新聞