アレルギー:防げなかった被害拡大 せっけんの小麦アレルギー
 「大型サイド」茶のしずく石鹸

 

製品開発に関する商品特性を良くして、売れる商品にするべく、
添加する人工加工原料の危険性

 福岡県のせっけん製造販売会社「悠香(ゆうか)」が販売した「茶のしずく石鹸(せっけん)」の旧製品による小麦アレルギーで、損害賠償を求める集団訴訟への動きが相次ぐなど波紋が広がっている。人気女優のテレビCMで関心を集め、約4650万個を売り上げたが、少なくとも569人が発症し、救急搬送や入院した重い症状も66人に上った。被害の拡大は防げなかったのか。

 ▽呼吸困難

 「うどんを食べて運動した後に急に顔が腫れて呼吸困難になり、救急病院に運ばれた」。鹿児島市の主婦(29)は2年前の体験を切実に訴えた。茶のしずく石鹸を3年前から使っていた。

 医師の指摘で今年1月に使用をやめたが「最近症状がひどくなった。外食もできず、食事制限もたくさんあるのでつらい」と胸中を明かした。

 茶のしずく石鹸の旧製品は、小麦を薬剤で分解した加水分解コムギ「グルパール19S」を含んでいた。日本アレルギー学会の特別委員会によると、この小麦由来成分が皮膚などを通じて体内に入り、それまで小麦アレルギーに無縁だった人に症状を誘発。まぶたの腫れや、重い人は呼吸困難や血圧の低下を起こす。

 ▽メーカー

 国立病院機構相模原病院(相模原市)の福冨友馬(ふくとみ・ゆうま)医師が最初に風変わりな患者を診察したのは2008年12月。通常の小麦アレルギーでは見られないまぶたの腫れが目についた。その後、似た患者が相次いだ。

 福冨さんは、診察から患者に共通する茶のしずく石鹸に気付いた。09年に検証のため悠香に原材料の提供を求めると断られ、その後悠香が応じたのは10年3月という。福冨さんは09年10月の日本アレルギー学会で、商品名を伏せた上で、せっけんで小麦アレルギーが起きると発表した。

 厚生労働省に初めて医療機関から11人の健康被害が伝わったのは10年9月16日。同省は悠香に事情を聴き、10月15日、小麦由来成分を使用するメーカーへの注意喚起を通知した。

 悠香はこれを受け10月20日、ホームページに案内を掲載。だが、症状が出たら医師に相談するようにとの内容にとどまった。福冨さんは「この時点で使用を控えるよう適切に情報提供していれば、被害は今より少なくて済んだはずだ」と語る。

 悠香は旧製品がアレルギーを起こすと考えたのは11年5月半ばにアレルギー学会で使用者の発症が複数報告されたためで、同月20日には自主回収を始めたとしている。

 ▽連携不足

 行政の対応にも課題が残る。昨年10月15日の厚労省の通知は、女性3人が強いアレルギー症状を起こしたとしたが、商品名の記載はなかった。消費者庁は同日にメールを受け取ったが詳しく問い合わせず、情報は放置された。

 厚労省の担当者は当時の判断を「小麦由来成分を含む商品は多くあり、茶のしずくだけ出すのは適当でない」と語るが、消費者庁幹部は「厚労省が(商品名を挙げて)注意喚起していれば問題なかった」。連携不足が浮き彫りになった。

 結局、消費者庁が注意を呼び掛けたのは今年6月。悠香の自主回収開始後で、厚労省の一報から8カ月も経過していた。

 さらに全国の消費生活センターに05年6月から約5年間で18件の健康被害情報が寄せられていたが、消費者庁はこれを生かせず調査しなかった。

 消費者庁の福嶋浩彦(ふくしま・ひろひこ)長官は「きちんと事故情報を把握すべきだった。反省しなければならない」と話し、庁内の体制を改め、今後厚労省との連携を強化するとしている。

2011年12月5日 提供:共同通信社