講習会レポート「放射線による人体への影響」


杏林大学医学部外科学教室講師
田中 良太 先生

日本において最大の大規模地震災害となった3月11日の東日本大震災は、我々に多くの爪痕をのこし課題を突きつけました。同時に発全した福島第1原子力発電所の事故は決して他人事ではない、国民生活に直結した問題となっております。事故収束にむけ現在もなお現場での作業は続いていますが、放射性物質の汚染による人体への影響は、国民生活での不安を拭えないのが現状です。ここ最近のことでは「京都五山送り火」において陸前高田市の薪が、使用中止になった事例があげられます。陸前高岡市をはじめ、被災地の方々の悲痛な思いがうかがえる出来事となりました。さてその松の薪の表皮から検出されたセシウム134と137が1キロあたり1130ベクレルとはいったい人体にどのような影響があるのでしょうか?放射線による人体への影響(被ばく)や、その規模を推測するためには、これだけの情報量で判断できるものではありません。放射線による被ばくがおきる経路には、外部被ばくと内部被ばくの2つがあります。外部被ばくは人体の外にある放射性物質から受ける被ばくで、内部被ばくは汚染した食品などを摂取して体内から受ける影響です。原子力発電所の事故による人体への影響は、外部被ばくと内部被ぱくの両面で考える必要があります。そして放射線の人体への影響量(シーベルト)は、放射性物質の種類、物質から放出される放射線量(ベクレル)、放射牲物質の摂取量などが関係します。本セミナーでは皆様に放射線の基礎知識をわかりやすく解説したいと考えております。

福島の原発は時を追うごとに国民の不安をあおっているので外部被ばくと内部被ばくの基礎的なことを理解してもらいたい。

用語の説明
ウラン235  原素(放射性物質)は不安定で放射線を出している。この放射線の能力のことを
放射能という。
シーベルト 体への影響量
ベクレル  放射線の量  1秒間に1個で1ベクレル
       放射線の種類 × ベクレル=シーベルト
1シーベルト(Sv)=1000mmシーベルト(mSv)
1ミリシーベルト(mSv)=1000マイクロシーベルト(μSv)
測定には検出限界がある

茨城市への2泊3日の旅行時の被ばく量(屋外)  滞在時間55h
8月19日茨城市のモニタリング表 による被ばく線量の予測0.18マイクロシーベルト
1時間に0.18(μSv/h)×55h=9.9マイクロシーベルト
胸部レントゲンは0.05(mSv/回)ミリシーベルト

放射線の種類
●電離放射線
アルファ  紙で止める
ガンマ   アルミニュウム等の薄い金属板でとめる
ベータ   鉛・厚い金属板などで止める
医療被曝 X線
ヨウ素131 半減期8日 甲状腺の被ばくが問題
セシウム137 半減期30年
(福島の場合はヨウ素とセシウム137)

外部被ばく
風や雨にて運ばれ体の皮膚や衣・土壌に付着、空気中の粉じん・木や草に
触れることにより被ばく

内部被ばく
主に食べ物により内臓にて放出され被ばくする
放射線を含んだ雨水が川へ流れ、川の魚は放射線を含んだ水やプランクトンを摂取、その魚を人間が摂取する食物連鎖と生物凝縮により被ばく

●自然放射線
食物からの被ばく(ほとんどカリウム40)
1kg当たり 米 30ベクレル
バナナ 100g 352ベクレル 食べても問題はない
  ラドン・ラジウム温泉
  宇宙からによる移動被ばく
   東京〜ニューヨーク  0.19ミリシーベルト
  ブラジルの高地 いるだけで 10ミリシーベルト

●医療被曝
  X線   胸部レントゲン   0.062ミリシーベルト
      バリウム 3ミリシーベルト
      CT 5〜30ミリシーベルト
      ペット      2〜10ミリシーベルト
最近はCT+ペットを同時に検査することが多くなってきている。
各国のCT装置数で日本は他国を抜きんでて1位なのは、CTは日本で開発された為である。
ある程度おおきくならないとわからない、淡い影はレントゲンでは見つけられなかったがCTの普及により肺がんの早期発見ができるようになった、他国と比べ10年先をいっている。

ALARAの原則(As Low As Reasonably Achievable)
診断情報を生体作用リスクを可能な限り低い放射線量で必要な診断情報を得る

職業被ばくにおける防護
  ガラス線量計 1年間で50ミリシーベルト 5年間で100ミリシーベルトを計測
X線防護衣 にて放射線を散乱させ防ぐ

肺がんの診断で撮影中に肺に針を直接刺す作業をするときは鉛の手袋を使用するが、手袋をすると細かい作業がしずらいので手袋なしでしたら50ミリシーベルトをいっきに超え、その後は作業をすることができなくなってしまった。通常は1年間で48ミリシーベルト内

●チェルノブイリの原発事故 1986.4.2
広島原爆の400倍
主にヨウ素 ストロンチウム90 セシウム137による土壌汚染
30km圏内は畜産農業は禁止
事故災害時の作業員消防士100名死亡
その後の作業員80万人中軽装で作業した30人が早期死亡 14人が10年間で死亡
住民は新聞報道が29日で空白の何日間とその後もヨウ素131で被ばくした牛乳を飲んでいたのでベラルーシでは5年間で小児早期がんが2020人になった。

●福島原発
人的被害 建屋内にて急性被ばくか、つなみによるか不明で死亡2名
      下敷きによる死亡1名
      100ミリシーベルト超えの作業員21人中被害0人
文部科学省8月13日発表 茨城県沖海水中 検出限界以下
相馬市井戸水はヨウ素セシウムは検出されず

放射線とがん
人間60兆憶の細胞
細胞の核の染色体の中のらせん状の遺伝子に影響し変異するが
体の機能は修復機能が備わっているので細胞は変異と修復を繰り返し、修復できないとがん化する。
         

  白血病 その他のがん
潜伏期間 2〜3年 10年以上
ピーク 6〜7年  
現場の作業者以外は心配ない

●学会では今回の福島原発による放射性ヨウ素による安定ヨウ素剤の投与は必要ないとのこと
チェルノブイリでは小児がんは5〜6年がピーク、甲状腺がん

●放射線によるがんの因果関係は報告されていない。

●被ばくによる胎児への影響
奇形・中枢神経への影響
   100ミリシーベルト以下の線量では起こらない
●今後について
  食物連鎖と生物濃縮があるので、摂取している食品の放射線レベルを知ること。
  いまだに、車に被災地のナンバーがついてると、いたずらされると報道があったが、放射線はうつらないので、放射線についてよく理解し正しく怖がることが大切である。

肺がん死亡数とたばこの消費量
がんによる死亡は3人1人である。
一位は肺がんでがんによる死亡の5分の1 これはたばこの喫煙率が上がったため。
放射線によるがんの死亡よりたばこによるがんの死亡を心配した方が賢明である。

喫煙と肺がんの関係
すべてのがん患者でたばこを吸わないで死亡をした人を1とすると
          たばこを吸うのをやめると1.4倍

肺がんの患者でたばこを吸わないで死亡した人を1とすると
        たばこを吸うのをやめると2.2倍
        たばこを吸うのを続けると4.5倍
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生活習慣病予防 あなたは何点ですか?
0〜4不良  5〜6該当  7〜8良好 スコアを上げる努力が必要
ちなみに田中先生はスコア4でした。
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がんの原因は生活習慣病であること、自分が内部被ばくを受けるかは食べ物の量なので、考えすぎると精神衛生上よくないので、前にお話しした通り、被ばくによる健康被害はさほどでないので、それほど不安がることはない。放射線の知識を蓄え正しく怖がりましょう。

講習会に参加して
報道されている放射線の計測方法や数値、安全とされる基準が正しければ、今住んでいる範囲では放射線による健康被害はないので、たばこや生活習慣について再度考慮して健康に過ごせるようにしていきたと思いました。

平成23年8月28日  松田 美津子