8月中旬、異変に気づいた。「放射線量の基準を超えた車が少し増えている」。東京電力福島第1原発の敷地内にある「車両スクリーニング施設」で、検査器を手に30代の男性作業員はいぶかしがった。後になって、この時期に敷地内で舞うほこりの放射能濃度が高くなり、他の作業員が放射性物質で汚染されたと知った。
男性は2012年秋から、スクリーニング施設で原発敷地から退出する工事車両の放射線量を測る仕事をしている。基準値を超えた車両は除染し、再測定で基準を下回らないと外には出さない。
原発で働くのは初めてだった。最初、防護服にマスク姿の作業員ばかりの様子に「ここは刑務所か」と驚いた。地面に鉄板が敷かれた現場は暑く、夏は40度以上が普通だ。現場での作業時間は休憩を挟んで6時間程度。下着を何度も取り換える。「熱中症が心配」と小まめに水分を取る。
所属する会社から「他の現場に比べて放射線量が低く、危険手当は付かない」と言われた。だが、被ばくへの不安は残る。「除染作業には危険手当がある。敷地内で働く全員に手当を出してほしい」と求めている。
線量が上がったことについて、東電は8月下旬、原子炉建屋のがれき撤去作業で出たほこりが原因の可能性が高いと明らかにした。汚染水漏れ問題も収束のめどは立たず、事故から2年半たっても、さまざまなトラブルが起き続けている。
過酷な環境で働く作業員は1日約3千人。「責任感がないと続けられない」と男性が話すように、各人の使命感が現場を支える。しかし、作業員は下請け企業に雇われるケースが多く、雇用トラブルを抱える人もいる。
長野県出身の林哲哉(はやし・てつや)さん(41)は12年6月、福島県いわき市の会社に雇われ、原発で仕事をすることになった。後に6次下請けだと知った。
「放射線量の低い現場」と事前に聞かされていたが、働き始める前になって、2次下請けの担当者が「作業場所は線量が高く、1回当たりの作業は5〜10分で交代してもらう」と言い出した。
林さんは雇用先の社員に話したが「大丈夫」と繰り返すばかり。「1日1ミリシーベルト浴びても8日たてばゼロになる」とうその説明すらしたという。2次下請けの担当者にも直接抗議。結局、比較的低い線量の現場に配置されたが、"上の会社"に抗議したことを問題視され、わずか1日で解雇された。
現場には雇った会社の社員はおらず、元請けや2次下請けの社員から指示を受けていた。疑問に思い、労働組合「派遣ユニオン」(東京)に相談。多重派遣や偽装請負に当たり、解雇は不当だと12年9月、福島労働局に実態を申告した。
「安全圏にいて文句ばかり言いたくない」と原発事故の収束作業に携わろうと決意したという林さん。解雇後も別の企業に属して原発で働いたが、抗議したことが知られ、再び仕事を外された。「当然の疑問を聞いただけなのに」と今でも憤っている。