外洋に1日600億ベクレル放出 セシウムなど第1原発から 
気象研の研究官報告 東電「濃度は基準以下」

 

 【ウィーン共同=宇田川謙】東京電力福島第1原発の汚染水問題をめぐり、気象庁気象研究所の青山道夫(あおまや・みちお)主任研究官は18日、国際原子力機関(IAEA)の科学フォーラムで、原発北側の放水口から放射性物質のセシウム137とストロンチウム90が1日計約600億ベクレル、外洋(原発港湾外)に放出されていると報告した。

 東電は「法定基準以下の濃度と確認して放水しており問題ない」としており、事故後に海洋モニタリング調査を続けてきた青山氏も濃度については1リットル当たり1ベクレルで基準値以下との見解。しかし放出総量については法的な規制がない。東電には放水口から出る放射性物質の総量について詳細な説明が求められる。

 青山氏は総量に注目し「この水の中に魚が生息すると放射性物質が濃縮され、日本の規制値を超える」と指摘したが、周辺海域への影響は「沖合では薄められ、漁業に影響しない」と分析した。

 セシウム137の半減期は約30年、ストロンチウム90は約29年。1〜4号機の原子炉建屋側からいったん港湾内に染み出た後、炉心溶融を免れた5、6号機の取水口から取り込まれ、北側放水口から外洋に放出されている。

 青山氏の調査によると、第1原発の放水口から出るセシウム137は、事故後の2011年3月26日〜11年4月7日は1日当たり約100兆ベクレルだった。その後、徐々に低下し12年初めごろから現在まで約300億ベクレルで推移。ストロンチウム90も現在、約300億ベクレル出ているとしている。

 1〜3号機の溶融燃料の冷却に使って汚染された水はセシウムを除去した後、再び冷却水として使われるため、濃度が徐々に下がるはずだが、海に出ている汚染水の濃度は一定程度以下には下がっていない。青山氏は冷却水が汚染されるだけではなく、原子炉建屋地下の水と溶融燃料が直接触れている可能性があるとみている。

 海水中のセシウム137とストロンチウム90の比率から、青山氏は「原子炉建屋地下から漏れ出ていることは間違いない」としている。

 1〜3号機で溶けた燃料は格納容器内に落ちたと考えられているが、東電は燃料がどこにあるのか把握できていない。

2013年9月19日 提供:共同通信社

汚染水問題を収束させるには Dr.中川のがんの時代を暮らす/79

先月末、東京電力福島第1原発の視察に行ってきました。深刻さを増す汚染水の現場を見てきました。2020年の夏季五輪の最終プレゼンテーションで安倍晋三首相が「東京には何のダメージもない」と明言し、東京開催を決定づけましたが、一時は招致を危ぶむ声もありました。

汚染水による住民の被ばく量はほぼゼロです。東京はもちろん、福島や周辺各県についても同様です。まして、福島を含む8県の水産物の全面禁輸に踏み切った韓国の決定は全く理解できません。

一方、汚染水は毎日400トン増え、敷地内には1000基ものタンクが並びます。汚染水は、建屋内の放射性物質を含む冷却水に山からの天然の地下水が流れ込むことで増えていますから、地下水が建屋に入る前にくみ上げて海に流す方法が考えられます。しかし、漁業関係者らの同意が得られていません。

現在はセシウムを除去する処理をしていますが、今月中に、ほとんどの放射性物質を除去する装置が稼働する予定です。ただし、トリチウムだけは水の分子に取り込まれてしまうため、除去は不可能です。

今後、汚染水で問題となるのはこのトリチウムです。皮膚も透過しないほど弱い「ベータ線」だけを出す放射性物質ですから、外部被ばくは問題になりません。内部被ばくについても、海洋放出の濃度限度(1リットル当たり6万ベクレル)の汚染水を毎日2リットル飲んでも、年間の被ばく量は0・8ミリシーベルトにもなりません。現在の福島沖のトリチウム濃度は検出限界以下です。

一方、主に天然の放射性物質であるポロニウムなどが含まれる魚介類を摂取することによって、日本人は年約1ミリシーベルト程度の自然な内部被ばくを受けています。過度な心配は不要でしょう。

敷地内に林立する巨大タンク群を、新たな地震が襲うというのが「最悪のシナリオ」と考えられます。東京電力や国の責任はもちろん重大ですが、一日も早い汚染水問題の収束が求められる今、汚染水から技術的に可能な放射性物質を除去し、残るトリチウムを検出限度以下の濃度まで希釈して、海に流すことも検討すべきだと僕は考えます。(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)
 

2013年9月19日 提供:毎日新聞社