| なべ物、みそ汁、炊き込みご飯にと、秋の味覚キノコは日本人の食生活にしっかり根付いている。そのキノコに、免疫力を上げ、生活習慣病を防ぐ効果のあることがわかってきた。 | 
                   
                 
                「米国人が食べている食材は全部で約2千種類なのに対し、日本人は1万2千種類にのぼる」。農林水産省食品総合研究所の鈴木健夫所長は、食材の豊富さが日本の長寿を支える大きな要因と考えている。 
                   
                  実りの秋、食欲の秋を代表する味覚の一つが、キノコ。欧米人が食べるキノコといえば、マッシュルームや最上の珍味として知られるトリュフが有名だが、日本ではキノコ狩りツアーが組まれるほど種類が豊富。ざっと4千−5千種類にのぼる。湿度が高く、山がちなためで、そのうち約百種類が食用になっている。 
                   
                  なべ物に、炊き込みご飯にと、何気なく食べているキノコだが、健康の維持増進や病気予防に大いに役立っていることが、日本を中心にした研究で急速に解明されつつある。 
                   
                  日本のがん研究をリードする国立がんセンター研究所は長年、がんの増殖を抑制する食材を探す研究を続けてきた。91年まで同研究所の主任研究官などを務めた池川哲郎さんによると、「色々な食材を試したなかで、食用キノコの抽出をマウスに食べさせたところ、がんの増殖が驚くほど抑えられた」。 
                 
                
                   
                    |  
                       きのこの効用と主な成分 
                      
                         
                          |  
                             効用 
                           | 
                           
                             成分 
                           | 
                         
                         
                          |  
                             免疫を高める 
                           | 
                           
                             ベータグルカン 
                           | 
                         
                         
                          |  
                             体のサビを防ぐ(抗酸化作用) 
                           | 
                           
                             たんぱく質 
                           | 
                         
                         
                          |  
                             抗ウイルス・肝炎改善作用 
                           | 
                           
                             たんぱく質 
                           | 
                         
                         
                          |  
                             コレステロール低下作用 
                           | 
                           
                             食物繊維 
                           | 
                         
                         
                          |  
                             血圧降下作用 
                           | 
                           
                             たんぱく質 
                           | 
                         
                         
                          |  
                             糖尿病予防作用 
                           | 
                           
                             食物繊維 
                           | 
                         
                         
                          |  
                             便通改善 
                           | 
                           
                             食物繊維 
                           | 
                         
                       
                     | 
                   
                 
                この研究をもとに、抗がん免疫療法剤「レンチナン」が作られた。レンチナンの有効成分は、しいたけに含まれるベータ(β)グルカンと呼ばれるもの。免疫力を高めてがんの増殖を抑える効果がある。味の素と山之内製薬が共同開発し、胃がんの患者に抗がん剤とともに処方されている。 
                   
                  ほかにも、カワラタケからは肺がん・胃がん・大腸がんに有効な「クレスチン」(三共・呉羽化学)、スエヒロタケからは子宮頸(けい)がんに有効な「ソニフィラン」(科研製薬)という免疫療法剤が作られている。 
                   
                  いずれも有効成分はベータグルカンだ。マイタケ、エノキ、ブナシメジといった食用キノコにもベータグルカンが含まれ、免疫力を高めることがマウスの動物実験で確認されている。最近栽培が可能になったハタケシメジ、ハナビラタケ、ヤマブシタケ、それにアガリクス茸の名前でも宣伝されているヒメマツタケは、サプリメント(栄養補助食品)としても人気がある。 
                   
                  免疫力が高まると、かぜをひきにくくなり、花粉症やアトピーといったアレルギー症状の改善にもつながる。 
                   
                  ベータグルカンは多糖類と呼ばれる食物繊維の一種。生のキノコは水分が多いが、干したキノコは半分近くがベータグルカンを含む食物繊維だ。食物繊維は、高血圧や糖尿病といった生活習慣病を防ぐ有力な成分として注目されている。 
                   
                  実際、1日9グラム(約3個)の干ししいたけを食べると、2、3習慣でコレステロール値が改善したという実験結果がある。キノコを食べると、生活習慣病の予防も期待できるわけだ。 
                   
                  スーパーなどの店頭には、1パック100−200円程度でマイタケやシメジといったキノコが並ぶ。健康維持のためにキノコを食べて免疫力を上げるには、毎日、半パック(生しいたけの場合は、90グラム程度)程度は食べたい。煮出してエキス分を摂取するのではなく、食物繊維を含むかさや軸も合わせて食べたい。 
                   
                  これからやってくるかぜの季節を元気に過ごすためにも、キノコを上手に活用したい。キノコを直接食べるのは苦手という人や、有効成分をより多く取りたい人は、薬局・薬店やデパートの健康食品売り場などでサプリメントが買える。 
                 
                (『日経ヘルス』編集部) 
                 |