国民に防護ライン示せ 被ばくリスクに向き合う 
武田邦彦・中部大教授



 放射線被ばくのリスクとどう向き合うか-。武田邦彦(たけだ・くにひこ)中部大教授は、福島第1原発事故の発生以来、子どもを持つ親に向けてインターネット上で放射線から身を守る方法についての執筆を続ける。元旭化成ウラン濃縮研究所長で、事故前は「安全な原発なら推進」との立場だった同教授は今、「国の防護政策は甘すぎる」と警鐘を鳴らす。

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 -インターネットで情報発信を始めた理由は。

 「国は原発からの距離に応じて住民退避の是非を判断していた。しかし、重要なファクターは風の影響のはず。これはいかんと思い、執筆を始めました。原子力技術者として事故に責任を感じており、正しい情報を発信して償おうと考えた」

 -文部科学省は児童、生徒が浴びる放射線量について、4月に「年20ミリシーベルトを下回れば平常通りに活動できる」としたが、5月末には「年1ミリシーベルト以下を目指す」との目標を示した。教育現場は混乱している。

 「国際放射線防護委員会が示す年間被ばく量の上限『年1ミリシーベルト』の基準を変えてはならない。放射線で被ばくするという"損失"があるなら、その損失に対して"利益"が上回る必要がある。年1ミリシーベルトの場合の発がんリスクが、原子力による電力供給で国民が得るメリットと相殺されるという考えから、年1ミリシーベルトが国際的な合意となったのだから、もし年20ミリに上げるなら、メリットも20倍にならないと駄目。その議論を十分にしないまま、文科省が年20ミリシーベルトとした罪は大きく、親が納得できなくて当然だ」

 -幼い子を持つ親たちが放射線量を自主的に測定し始めた。

 「非常に評価すべきだ。追随する形で自治体が細かな計測を始めたが、本来なら家庭よりも先に動かなくてはならなかった。気になるのは、子どもへの放射線の影響を気にする親を、神経質などと異端視する社会の風潮。子どものために産地を気にして食品を購入するのは自然なことであり、非難してはならない。給食について不安ならば、学校に食材の産地を明示してもらいましょう」

 -食べることで被災地の生産者を助けようとする動きがあるが。

  「人助けと、自分の体への影響の問題は、切り離して考えなくてはならない。生産者の損失は経済的なものだが、消費者が食べることのリスクは健康に響く。食品の安全性が確認できず、被ばくの恐れがあるならば、当然、注意が必要だ」

  -風評被害を防ぐべきだという声も強い。

 「『風評被害』という言葉が独り歩きしたことが問題。食べ物からセシウムなどの放射性物質が検出されたんだから『風評』ではなく『実害』のはず。その賠償は消費者ではなく、東京電力に負わせなくてはならない」

 -では、安全な食べ物とは何か。継続して摂取しても年1ミリシーベルトを超過しない作物ということか。

 「そうです。正確に言えば、食べ物だけでなく、外部被ばくも含めたトータルの値で、原発事故による被ばくを年1ミリシーベルト以内にとどめないといけない。国には国民の健康を守る決意を持ち、1ミリシーベルト以下にとどめるための日常生活での防護ラインを示してほしいですね」

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 たけだ・くにひこ 43年東京都生まれ。専門は資源材料工学。08年から内閣府原子力委員会専門委員を務める。著書に「子供を放射能汚染から守りぬく方法」など。


2011.07.14 提供:共同通信社