老化で減る脳の神経幹細胞を増やす仕組みを産業技術総合研究所(茨城県つくば市)と筑波大の研究チームが解明し、8日発表した。
運動をすると、特定の細胞から分泌されるたんぱく質の因子(Wnt3)が増え、これが起点となって神経が新生する現象をマウスの実験で突き止めた。うつ病や認知症の新治療法や創薬開発に役立つという。米実験生物学誌に掲載された。
学習や記憶を担う脳の領域「海馬」にある神経幹細胞は老化で数が減り、細胞を生み出す力も衰える。実験では、生後22カ月の老齢マウスと、9週間の若いマウスの海馬からアストロサイト細胞(神経幹細胞を支える細胞)を取り出して培養。比較すると老齢マウスのWnt3産出量は若いマウスの30分の1しかなかった。
さらに、マウスにベルトコンベヤー上で毎日10分間2回ずつ走らせる運動を2週間続けたところ、運動前と比べてWnt3産出量は若いマウスで10〜15倍、老齢マウスでは20〜30倍と飛躍的に増えた。
運動すると脳が活性化する事実は知られているが、老化で低下した神経を作る機能が復活し脳の「若返り」につながる仕組みを細胞レベルで解明したのは初。
研究チームの産総研幹細胞工学研究センターの桑原知子研究員は「アストロサイト細胞を活性化させれば神経幹細胞を呼び戻すことができ創薬開発などに応用できる」と説明している。
【安味伸一】