アロマの刺激で脳波変化
心地よい香りを放つオイルやろうそく、お香などのアロマ(芳香)グッズ。好きなにおいをかぐと気分が癒(いや)される、と人気を集めている。だが、一方では「気のせいではないのか」と疑問視する声もある。香りの癒し効果は科学的にどこまでわかっているのか、探ってみた。

「寝つけないとき、ラベンダーの香りの小袋をまくらの下に入れると、ぐっすり眠れる」と話すのは都内在住のOL(25)。リラックスしたいときやリフレッシュしたいときに、ハーブティーや入浴剤といったアロマグッズを使っている。

「最近は若い女性だけでなく、男性も多い」と話すのはハーブやアロマ関連商品を20年近く前から扱う「カリス成城」(東京・世田谷)の高鳥みどりさん。人気の香りはラベンダー、グレープフルーツ、ペパーミント。それぞれ気分を落ち着けたいとき、元気をつけたいとき、気分を集中させたいときに良いという。

一般にアロマテラピーとは、植物から抽出した精油をかいだり、塗ったり、飲んだりして、生理機能を整える療法を指す。だが、においをかぐだけでそんな効果があるのか、疑問に思う人も多いだろう。

「香りに一定の効果があることは検証できた」と話すのは高砂香料工業総合研究所の岡崎義郎研究主任。最近は、香りのきゅう覚刺激による生理的・心理的効果だけについて科学的に検証する試みを「アロマコロジー」と呼ぶこともある。

岡崎主任らがCNVと呼ばれる脳波の一種を被験者に様々な香りをかがせながら測定したところ、ラベンダーでは脳が鎮静状態の時の波形が、ジャスミンでは覚せい状態の時の波形がそれぞれ現れた。それ以外の香料でも、別表のように効果が確認できたという。

さらに、香りには疲労感の軽減、作業効率の向上、ストレスの緩和といった効果が認められるという実験結果が出ているほか、冒頭の女性のような睡眠への影響についても報告がある。

では、香りにはなぜこうした効果があるのか。はっきりしたメカニズムはわかっていないが、一般には、においをかぐと芳香物質がきゅう覚を刺激し、信号となって鼻から脳に伝わり、その過程で感情や気分を決める物質の分泌を促して効果が生じるといわれる。

一方、山口大学の青島均教授(生化学)は、芳香物質に含まれる化学成分が鼻や肺から呼吸によって体内に吸収され、血液を通して脳に入り、効果を引き起こすという説を唱えている。

脳波測定により効果が確認された香料

覚せい効果

鎮静効果

・バジル(めぼうき)
・ブラックペッパー
・カシア(シナモン)
・クローブ(ちょうじ)
・ジャスミン
・ネロリ(オレンジの花)
・ペパーミント
・ローズ
・イラン・イラン
 (熱帯樹の一種)

・ペルガモット
 (たいまつばな)
・カモミール(かみつれ)
・キャラウェイ
 (ひめういきょう)
・ラベンダー
・レモン
・マジョラム(シソの一種)
・オレンジ
・サンダルウッド
 (びゃくだん)
・スペアミント

青島教授によると、脳の神経細胞の表面にあるGABA(ガバ)受容体というたんぱく質は、特定のアミノ酸など結合すると神経細胞の興奮を抑える働きがある。同教授は芳香物質がGABA受容体に作用することを突き止めたという。

「森林で放散されるフィトンチッドや緑茶が含む青葉アルコール、ウイスキーの各種香気成分などの芳香物質もGABA受容に作用し、興奮を抑制する」。

2つの説は相反するものではないので、香りが持つ癒し効果は双方の相乗によると考えるのがよさそうだ。

もっとも、効果を過信するのは禁物だ。「芳香物質は薬ではない。副作用がないかわり、著しい効果もない」(青島教授)からだ。岡崎主任も「香りは人間本来の生理的なバランスが崩れたとき、元に戻す手助けをする。薬の補助として使うなら有効だが、代わりにはならない」と指摘する。本当に体調が悪ければ、医師に相談すべきだ。

「香りには好き嫌いがあるから、自分の好きな香りが一番効果がある」とカリス成城の高鳥さん。香りに頼りすぎたり、振り回されたりせず、自分の生活リズムに合わせてうまく取り入れることが大切だ。

 

(2001.9.15 日本経済新聞)