接触性皮膚炎など金属、合成樹脂の例
 

症例で学ぶ接触皮膚炎 を読んで

日本人の感作率1位はニッケル、要注意はチウラム系化合物(2010年度の最新調査)

 1位はニッケル、要注意はチウラム系化合物――。
2011年7月に開催された日本アレルギー・接触皮膚炎学会で、藤田保健衛生大皮膚科教授の松永佳世子氏は、日本人が感作されやすいとされているアレルゲン(ジャパニーズスタンダードアレルゲン)に対する、2010年度の陽性率と原因アレルゲンの実態調査の結果を発表。

 2010年4月〜2011年3月の間に、ジャパニーズスタンダードアレルゲンを用いてパッチテストを実施した75施設1879例のデータを集計。最も陽性率が高かったものから順番に、ニッケル14.2%、うるし(Urushiol)11.5%、クロム8.3%、コバルト7.6%、パラフェニレンジアミン(PPD、染毛剤の材料として使われている)6.2%となった。

 松永氏は、ニッケルが以前と変わらず陽性率がトップになっていることについて、「装飾品だけでなく、50円玉や100円玉など誰もが常に触れているステンレスなどの金属に含まれているため、感作が成立しやすい」と解説。今後は、「身につける製品にはニッケルを使わないようにするよう、なんらかの規制が必要では」と話す。また、ニッケルを含む金属による感作は1994年をピークに、徐々に減ってきていることも分かった。

 うるしについては、例年と陽性率に大きな差はなかった。うるしによって接触皮膚炎を起こす患者は、マンゴーとも交差反応を起こす。マンゴーの摂取時に果汁が皮膚に付かないように気をつける必要がある。

 ゴム手袋などに使われているチウラム系化合物による接触皮膚炎が徐々に増えてきていることが挙げられる。増加の理由としては、手荒れ予防や介護現場での感染予防などを目的にゴム手袋を身につける機会が増え、感作が成立しやすくなっていることが考えられる。

 化粧品による接触皮膚炎が6割

 77施設の923例の報告から、実際に接触皮膚炎の原因となった製品をまとめた結果を発表。化粧品が59.0%と最も多く、次いで医薬品が19.1%、装身具が4.3%、金属が3.3%、植物2.5%、洗剤などの家庭用化学製品が2.4%となった。

 具体的には、化粧品539例のうち染毛料が73例、化粧水が63例、洗顔料58例。また、医薬品175例の中では外用薬が111例、点眼薬が46例、内服薬が10例だった。

 陽性率が高いものとしては、外用薬ではクロタミトン・ヒドロコルチゾン配合クリーム(オイラックス)が12例、フラジオマイシン・メチルプレドニゾロン眼軟膏(ネオメドロールEE)が10例。化粧品では、最近社会問題化した茶のしずく石鹸が17例、ブラノアシュラン(ブランド名)が16例(洗顔料6例、化粧水4例、美容液6例)

 

 パッチテストを実施していない皮膚科医もまだ多い。パッチテストに使う市販のアレルゲンが少なく、海外から購入しなければならない上、試薬の作成に手間が掛かることや、こうした手間に比して保険点数が低いことが普及の障壁となっている。

 2年半後には一度に24種類のアレルゲンを載せてまとめて検査ができるパッチテスト用のキット『TRUETest』が認可される予定。そうすれば検査の手間が多少改善されるか。

銀や銅でも感作は成立
 
日本皮膚アレルギー接触皮膚炎学会で、第一クリニック皮膚科・アレルギー科(名古屋市中区)スキンサイエンスセンター長の杉浦真理子氏は、楽器による接触皮膚炎を2例報告した。トロンボーンとトランペットが原因で接触皮膚炎を発症した、いずれも10歳女児の症例。

毎日トロンボーンの練習をするようになってから、口唇のそう痒、紅斑、小水疱が現れるようになった。近医で抗アレルギー内服薬、ステロイド外用薬、保湿薬を処方されたが、症状がなかなか改善しなかった。5カ月後、症状が改善せず練習に支障を来したため、練習回数を週2回に減らしたが、症状は変わらなかった。

 2例目は、トランペットが原因となった女児の症例だ。1例目の患児と同様に、毎日トランペットを練習したことで、口唇にそう痒、乾燥、紅斑、腫脹が認められた。その5カ月後に部活動でフルートも担当するようになり、症状が悪化。近医で抗アレルギー内服薬、ステロイド外用薬、保湿薬を処方され、症状は改善したが、治療を中止するとすぐに再発した。

 これらの症例は、それぞれの近医では原因が特定できず、杉浦氏の下に紹介受診となった。杉浦氏が、リップクリームや口紅、歯磨き粉など、接触皮膚炎の原因となる可能性が高いものから問診で細かく確認をしたところ、楽器が原因である可能性が浮上。楽器に含まれる金属を調べたところ、トロンボーンは本体に真鍮(銅と亜鉛とニッケルの合金)が使われていた。また、トランペットの本体とマウスピースには銀メッキが施されていたことが分かった。そこで、これらについてパッチテストを行い、原因がそれぞれ銅、銀であることが特定できた。患者に木管楽器などの他の楽器を使うよう指導したところ、現在の症状は改善しているという。

 イオン化しやすく金属アレルギーのアレルゲンになりやすい物として、ニッケル、コバルト、金、水銀、クロムが知られている。だが、本症例のような銀や銅のケースはまれだ。

“チタン製”フレームで発症

金属アレルギーによる接触皮膚炎で、アレルゲンとして広く知られているのは、ニッケル、クロム、コバルトだ。しかし、これだけでなく「チタン製」と表記されているものでも、感作を起こし、症状が現れる場合があるため、注意を払わなければならないという。

 山形市立病院済生館皮膚科長の角田孝彦氏は、2011年7月に開催された日本皮膚アレルギー接触皮膚炎学会で、「チタン製」と表記されている眼鏡のフレームが原因で、皮膚のかぶれを訴え来院した症例を2つ紹介し、注意を喚起した。

 両こめかみ部に皮膚のかぶれが生じ、来院した29歳男性。眼鏡の金属フレームが触れる部分に皮膚炎が認められた。チタン製フレームの眼鏡をかけはじめて数カ月後から症状が現れたという。

 

 局所的に炎症が起きていることから、角田氏は眼鏡のフレームによる接触皮膚炎を疑い、パッチテストを実施した。すると、10%酸化チタンワセリンでは陰性、ニッケルワセリンでは陽性となった

 

 しかし、眼鏡のフレームには「TITAN」と刻まれており、すり減った様子もない。そこで角田氏は、フレームに対して、1%ジメチルグリオキシムエタノール液と水酸化アンモニウムを用いてニッケル反応を試みたところ、無色の液体がピンク色となり、明らかに陽性となった(写真3)。その後、眼鏡店で新しいチタン製フレームの眼鏡に交換してもらった後は、皮疹は生じていない。

 

つまりチタンにニッケルが含まれていた合金だった。

 

ゴム手袋も要注意

 手湿疹が現れて近医を受診するも再発を繰り返していた患者が、パッチテストによってゴム手袋が原因の接触皮膚炎だったと判明した。阪大皮膚科の清原英司氏が、2011年7月に開催された日本皮膚アレルギー接触皮膚炎学会で発表した。

 患者は、手のかゆみで来院した60歳の女性。2010年9月に手湿疹が現れたため近医を受診し、セチリジン内服薬、クロベタゾール外用薬を処方され、いったん症状は改善したものの、再発を繰り返していた。

 その後、患者は他院を受診し、ジフルコルトロンと炭化水素ゲル軟膏を外用したが、やはり再発するため、11年1月に阪大皮膚科を受診した

 

 患者は、09年から製菓工場で勤務を開始し、青手袋と白手袋の2種類の手袋を使用していた。このことから、清原氏はゴム手袋による接触皮膚炎を疑った。日本接触皮膚炎・皮膚アレルギー学会が推奨する、日本人の代表的なアレルゲン「ジャパニーズスタンダードシリーズ」(25種類)に加え、ゴム手袋3種とゴム製品に含まれている可能性のあるラテックス、使用中の外用薬のパッチテストを実施した。その結果、fragrance mix(香料)、チメロサール、加硫促進剤のチウラムミックスとdithiocarbamate mix、使用していた青ゴム手袋に陽性反応が現れた(写真2)。

パッチテスト結果 (4)チウラムミックス 2+、(7)dithiocarbamate mix 2+、(12)fragrance mix +、(32)青ゴム手袋 2+、チメロサール +、白ゴム手袋 − (※クリックで拡大表示)

 実際に患者が使用していた青手袋の成分表を取り寄せたところ、アクリルニトリルとブタジエンの重合体で作られた手袋であることが明らかになった。実施したパッチテストで陽性だったdithiocarbamate mixの成分と、青手袋に使われている加硫促進剤の成分の一部であるジブチルジチオカルバミン酸亜鉛が一致したことから、ジブチルジチオカルバミン酸亜鉛が接触皮膚炎の原因であると診断した。

 パッチテストでは、塩化ビニル樹脂製の手袋(白手袋)が陰性であったことから、清原氏は、患者にジブチルジチオカルバミン酸亜鉛を含まない白手袋の着用を勧めた。

 しかし、患者が利用している青手袋は耐油性に優れており、業務の性質上、変更できない状況だった。そこで、次善策として、ステロイドの外用に加えて、ゴム手袋の内側に綿の手袋を着用するよう指導したところ、症状は改善した。

 今回の症例は、患者が普段使っている青手袋には含まれていないチウラムミックスにもパッチテストで陽性反応が見られていた。清原氏はその理由を調べるため、市販の手袋37品に含まれる化合物を解析した報告例を確認したところ、チウラム系の化合物が含まれている手袋はなかった。だが、チウラムミックスとDTC系加硫促進剤(ZDBC)に共通の抗原決定基としてジアルキルアミノ基が報告されていることから、同氏は「ジアルキルアミノ基を持つDTC系加硫促進剤と交差反応を示した可能性がある」との考えを示す。

 低アレルゲン性ゴム手袋といわれている製品にもDTC系やアミン系の加硫促進剤が含まれている製品があることから、清原氏は「接触皮膚炎を発症している場合は、原因物質を含んでいない製品を勧めるのが基本。低アレルゲン性だから安全ということはなく、塩化ビニル製の手袋のように、プラスチック製品への変更が理想的だ」と話している。

アレルギー発症は、突然起きるが、その感作状態を詳しく問診することが

アレルゲン特定への近道だと感じた。

2011年10月28日 堤 一樹