相次ぐ突然死編(1) 患者の心不全16倍
「友人が心臓発作で突然死しました。同世代の知人が4人、5人と立て続けに亡くなっていく」
まだ40歳代の男性が、まるで高齢者のような言葉を口にする。彼は統合失調症を患っているが、抗精神病薬の単剤治療で寛解し、会社勤めを続けている。
知人たちは、死に至る病を抱えていたわけではない。ただ、彼と同じ統合失調症だっただけだ。しかし、彼とはひとつ大きな違いがあった。知人たちは、極めて多量の薬を服用していたのだ。
川崎市の家族会「あやめ会」(会員のほとんどが統合失調症患者の家族)が、2009年に発表した患者の死因調査を紹介しよう。統合失調症患者の突然死が、いかに多いかが分かる。
あやめ会の会員は約260人(患者数もほぼ同数)。このうち、データ集計までの1年間に、判明しただけで13人の患者が亡くなった。年間死亡率は実に5%だ。
あやめ会前会長の小松正泰さんが、この結果を厚生労働省の統計と比較したところ、同会の患者の年間死亡率は、同世代の国民(15歳から60歳代)の年間死亡率の25倍に達していた。
死因で最も多かったのは心不全で、6人。あやめ会の患者が1年間に心不全で亡くなる割合は、全国統計(人口比)の16.4倍にのぼった。
統合失調症は、心疾患を合併する病気ではない。小松さんは指摘する。「抗精神病薬を多量に服用すると、突然死を引き起こす不整脈の危険性が高まることは世界的に知られている。しかし、国内ではものすごい量がふつうに使われてきた。亡くなった人の中には、薬の被害者が多く含まれるのではないか」
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抗精神病薬の強さと量は、薬によって異なるため、同一の基準にそろえて量を比較する(クロルプロマジン換算)。このクロルプロマジン換算で、1日1000r 以上になると大量投与とされる。1000r を超えると、いらつきなどの精神症状や、筋肉の緊張、震えなどの身体症状が現れやすく、突然死を招きかねない不整脈が急増することが海外の調査で確認されているためだ。
精神科がある全国の病院を対象に、2009年に記者が行った調査では、1日1000r 以上の抗精神病薬を投与している入院患者がいる病院は、回答した135病院の83% (112病院)に達し、2000r 以上も52%(70病院)にのぼった。精神科の入院患者全体の平均投与量が1000r を超える病院も13あった。
いずれの病院も、数種類の抗精神病薬を組み合わせて総量が増えており、投与量が一番多い患者は、実に6600r だった。抗精神病薬の身体副作用に詳しい吉南病院(山口市)内科部長の長嶺敬彦さんは「薬の効果を調べる脳の画像検査などから、抗精神病薬が有効に働くのは400r -600r と考えられている。それ以上を投与しても効き目は頭打ちで、副作用が強まるばかり。再発を繰り返す患者でも800r 以下が好ましい」と話す。だが、このような常識が日本では通じない。
次回は、常軌を逸した多剤大量投与で命を落とした可能性が高い30歳代の男性のケースを紹介する。
統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向けられている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。
「精神医療ルネサンス」は、医療情報部の佐藤光展記者が担当しています。
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