血中アミノ酸でリスク判定 胃がんなど5種で実用化 早期発見の期待
血液中に含まれる約20種類のアミノ酸の濃度を測定、解析し、そのバランスの変化から、がんの可能性を調べる検査方法が実用化された。今年4月、胃がんなど5種類のがんで解析サービスが始まり、人間ドックや健康診断で導入する医療機関が増えている。5ミリリットルの採血だけで複数のがんのリスクが判定され、受診者は疑いのあるがんに絞って次のステップである精密検査を受けられる。簡便な上に早期がんの発見も期待でき、今後の普及が見込まれる。
▽採血1回
「今までにない画期的な検査だ。放射線被ばくのような受診者の不利益が極めて少なく、希望者は増えると思う」。三井記念病院(東京)の山門実(やまかど・みのる)・総合健診センター所長の言葉に力がこもる。
この検査は「アミノインデックスがんリスクスクリーニング(AICS)」と呼ばれる。味の素が独自開発した技術を臨床応用したもので、現在は、胃がん、肺がん、大腸がん、前立腺がん、乳がんを対象としている。
同センターでは毎月約千人が人間ドックを受けるが、今年9月にAICSをオプション検査として導入したところ、11月末までに約50人が受診した。料金は1万8900円。これまでに3人が「がんの可能性が高い」と判定され、臓器ごとの精密検査へと進んだ。
従来のがん検診では、胃のバリウム検査や胸部エックス線検査、便潜血検査など、がん種ごとに検査が違い、受診者の負担が大きかった。しかしAICSは、1回の採血でこれらのがんのリスクを同時に調べられる。
▽比率が変化
なぜ、血液中のアミノ酸でがんを予測できるのか。味の素の吉元良太(よしもと・りょうた)・アミノインデックス部長によると、鍵は、血液中のアミノ酸が全身の状態を反映する"鏡"の役割をすることにある。
体を構成するタンパク質は、約20種類のアミノ酸から作られている。健康な人の場合、血中アミノ酸の濃度比率はほぼ一定に保たれているが、臓器に異常が起きると、その影響で比率が微妙に変わる。変化のパターンは臓器や病気によってそれぞれ特徴がある。
同社は、5種類のがんの患者計約2千人と、健康な人間ドック受診者約1万7700人のデータを基に、がんの種類ごとにリスク判定に最適な計算式を確定した。
実際の検査では、受診者のデータを計算式に入力して「AICS値」をはじき出す。この数値が大きいほど、がんの確率も高くなる。例えば胃がんの場合、最も高確率とされる「ランクC」(AICS値8〜10)では98人中1人ががんで、リスクは一般の10・2倍と推定されている。
▽婦人科がんも
AICSの大きな特徴に、早期がんに対する感度の高さがある。「早期でもアミノ酸のバランスは崩れるらしい。ある程度進行しないと変化が見られない腫瘍マーカーと違う点だ。また、がんの組織型にも左右されない」と吉元さんは話す。
同社と横浜市立大病院産婦人科などの共同研究により、子宮頸(けい)がん、子宮体がん、卵巣がんのいずれかにかかっているリスクも、AICSで早期から判定できることが判明。来春にも解析サービスに「婦人科がん」という1項目が加わる見通しとなった。
さらに今後は、従来の検査方法では早期発見が難しかった膵臓(すいぞう)がんや、がん以外の病気への応用も期待される。
山門所長は「精度が高く、がんの可能性がある人をふるい分ける検査として極めて有用。低迷する検診受診率の向上にもつながる」と話している。