難病カルテ:患者たちのいま/27 脳動静脈奇形 /佐賀
◇子育ての幸せ満喫 ヘルパー派遣で負担軽減
テレビを見ながら、振りに合わせて踊る長男生織ちゃん(2)を見守る。「脳動静脈奇形」の城島智美さん(38)が、左手で抱きかかえ、顔を近づける。2人は笑顔になった。先天性ミオパチーの夫淳二さん(27)が、その様子をうれしそうに見つめた。
智美さんは25歳の頃、激しい頭痛と吐き気を感じた。脳出血が判明。その後、けいれんなどの発作が起こるようになった。右半身のまひも徐々に広がった。
発症当時は、別の男性と結婚4カ月。夫は仕事で忙しく、会う時間が減った。共働きだったが働けなくなり、収入も落ちた。すれ違いが重なり、27歳で離婚した。
障害者の知人も身近におらず、どうしていいか、どこに行ったらいいか分からない。仕事もできず、社会に関わることができない。「死にたい」けど、「不幸なままでいたくない」。何度も考えた。
一方、「何かしたい」という衝動もあった。障害者向けイベントでボランティアを募集しているという告知を見て、参加を決めた。
イベントでは、脳性まひのある人や進行性の難病「筋ジストロフィー」の患者らと出会った。「自分だけがなぜ苦しまないといけないんだろう」という感情は、徐々に和らいだ。智美さんが介助役になることもあった。
淳二さんと出会ったのはその頃。幼い頃から車椅子で暮らし、障害を「負い目」に感じさせず、「普通」に生きているように見えた。思いやりのある人柄にも引かれ、交際、結婚した。
08年、妊娠が分かった。持病から、医師から「子供をつくってはいけない」と止められていたが、幸せをつかみたい、という「夢」をかなえたかった。
妊娠後2、3カ月ごろから、全身がけいれんし、意識を失う発作が起こるようになった。淳二さんは「朝を迎えることができるか、毎晩不安だった」と振り返る。
6カ月目には、外出時に車椅子を使うように。智美さんの車椅子を、車椅子の淳二さんが押し、2台が連なるようになった。
予定日より1カ月以上早く、帝王切開で長男を出産。しかし、脳出血の再発が発覚。出産から1カ月後、開頭手術を行った。
淳二さんの実家で過ごした退院後は、体力の低下で体が動かず、夜も一緒に過ごせない時期が続いた。新居に引っ越した今は、障害者向けサービスでヘルパーの派遣も受け、負担は減っている。
夫婦で病気を抱え、先の生活に不安がないわけではない。それでも、子供がいるにぎやかな生活は充実し、一日一日過ぎるのが早い。夜、親子3人で川の字に寝ている。「小さいことかもしれませんが、幸せを感じますね」【蒔田備憲】