再生治療:ES細胞で視力改善 世界初、網膜の病気に 
米企業が臨床試験

 

 【ワシントン共同】米バイオ企業アドバンスト・セル・テクノロジー社は23日、あらゆる組織に成長できる胚性幹細胞(ES細胞)を目の網膜の病気の治療に使う臨床試験で、治療を受けた2人の患者の視力が改善したと発表した。ES細胞を使った治療で効果が報告されたのは世界で初めて。

 臨床試験は安全性確認のために実施されており、医学的な有効性を確認するにはさらなる試験が必要だが、ES細胞による再生医療の可能性を示す結果として注目される。成果は英医学誌ランセットに掲載された。

 発表によると、同社と米カリフォルニア大ロサンゼルス校の研究チームは、網膜に関わる細胞が萎縮するなどの異常により視力が低下する加齢黄斑変性の78歳の女性とシュタルガルト病の51歳の女性の目に、ES細胞からつくった網膜色素上皮細胞を移植。2人はほとんど目が見えない状態だったが、文字が識別できるようになるなど改善がみられたという。

 ES細胞は、他人の受精卵からつくられたが、治療から4カ月たった時点で拒絶反応や腫瘍の形成などの異常は起きていないとしている。チームは安全性や有効性を確認するため、参加者をさらに増やし、臨床試験を続ける方針。

 同様の網膜の病気に関しては、日本では人工多能性幹細胞(iPS細胞)の利用を目指し、理化学研究所が臨床研究の計画を進めている。

 アドバンスト社は「幹細胞を使った今回の臨床試験の成果は画期的なものだ」と意義を強調している。

※再生医療

 培養した細胞や組織を体内へ移植するなどして、損傷した臓器や組織の機能を修復する医療。受精卵から作り、さまざまな臓器や神経、血液などに分化する能力がある胚性幹細胞(ES細胞)や、京都大の山中伸弥(やまなか・しんや)教授らが体細胞をもとに作る方法を開発した人工多能性幹細胞(iPS細胞)が有力な材料として期待されている。ただ治療に使う場合、がん化しないようにする課題があるほか、ES細胞は拒絶反応や倫理面での問題も抱える。

※加齢黄斑変性とシュタルガルト病

 加齢黄斑変性は、年を取るとともに、網膜の中央にあって物を見るために最も重要な「黄斑部」の働きに異常が起き、視力が低下したり、物がゆがんで見えたりする病気。中高年が失明する原因の一つ。シュタルガルト病も黄斑部に異常が起きるが遺伝性の病気。

2012年1月24日 提供:共同通信社