運動療法で骨折を予防できる?
 

運動療法により高齢者の活動性が向上、むしろ転倒するチャンスが増加?

小池達也(大阪市立大学大学院医学研究科リウマチ外科)
カテゴリ:一般内科疾患・内分泌・代謝疾患・整形外科疾患

2011年11月4日に行われた第13回日本骨粗鬆症学会骨ドック・健診分科会のシンポジウム「運動器不安定症と骨粗鬆症の接点」で、「運動療法で転倒や骨折は予防できるか?」と題して発表した内容の一部を報告する。


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骨折予防のための運動療法に疑問

 「骨粗鬆症に伴う脆弱性骨折が罹患者の死亡率を上昇させる」ことはよく知られた事実である。骨粗鬆症は「生命予後にも影響を与える疾患」としてとらえるべきである。また、ほとんどの脆弱性骨折は転倒が原因で生じることも周知の事実である。それゆえ、多くの研究が転倒危険因子の探索を行ってきた。「筋力低下」は、それらの危険因子のうちでも上位にランキングされる項目であり、骨折予防のための運動療法の理論的支えになっている。

 運動療法には、これまで3種類のエンドポイントが設定されることが多かった。(1)骨量増加、(2)転倒抑制、(3)骨折抑制である。1つ目の骨量増加に関しては、介入対象者が成長期であれば効果も期待できるが、高齢者が対象ではほとんど効果はないと考えられる。2つ目の転倒抑制を目標とした運動療法の一つとして、太極拳が取り入れられた研究が行われた。骨粗鬆症患者が研究対象ではなかったが、太極拳により軽微な転倒を抑制することに成功している。しかし、外傷を引き起こすような転倒を抑制することはできなかった。3つ目の骨折抑制について、運動療法により骨折を抑制できたとする研究は、背筋強化による脊椎圧迫骨折抑制のみと言っても過言ではなく、ゴール達成までの道のりは険しい。

歩行で骨折を増やす傾向あり

 これまでの研究で、「太っていること」と「運動すること」は、ともに大腿骨頸部骨折の抑制因子とされてきた。それを同時に検証した研究がある(Nikander R et al. JBMR.26: 1638, 2011)。

 これは閉経後女性を対象とした研究で、確かに「太っていること」以外にも「運動すること」は骨折に抑制的に作用すると思われる。しかし、我々が患者に勧める「歩行」は、必ずしも骨折を抑制しないどころか、骨折を増やす傾向さえある。また、もっと激しい運動をしても、決して骨折を抑制できているわけではない。

転倒そのものの抑制は難しい!

 運動療法の問題点は、介入量が様々な不確定要素により影響を受けることである。筋弱力が高度な人を対象としている場合と、運動愛好家を対象とした場合には、効果に雲泥の差が生じる。さらに、運動にはモチベーションの問題が常に絡んでくる。したがって、研究の際には必ずランダム化を行い、コントロール群の設定が必須である。

 我々は、介入量を一定にするために、運動機器を用いた受動的運動療法の効果を検証するランダム化比較試験を実施した。対象者は、施設に入所している高齢者171人。運動療法により身体バランスなどの転倒要因は改善されたが、転倒発生そのものを抑制することはできなかった。

運動療法には限界がある

 我々の研究にはいくつかの限界がある。少なくとも運動介入を行い、転倒危険因子を改善する傾向があったとしても、転倒そのものは抑制できるかどうか不明である。我々の研究結果をもたらした最大の原因は、「高齢者が運動療法により活動性が向上し、転倒するチャンスが増えた可能性」だと考えている。

 今後も運動療法に関する介入試験が実施されるだろうが、エンドポイントは「転倒」や「骨折」に置くべきであり、検査項目には置くべきではない。我々の研究は運動の効能を否定するものではないが、運動介入には限界が存在すると考えている。

2012年2月6日