世界初、長期記憶とMg関係解明
NMDA受容体のマグネシウム阻害が長期記憶に重要

 

 夢を見たり、脳の記憶のストーリは現実でない世界を感じさせたりする、脳の中の記憶を簡単にコピーして保存できる時代がくるかもしれない?

 東京都医学総合研究所の宮下知之氏らは、NMDA型グルタミン酸受容体(NMDA受容体)の情報伝達経路をマグネシウムイオンが阻害する「マグネシウム阻害」が長期記憶の維持に重要であることを、世界で初めて明らかにした。首都大学東京、東京薬科大学との共同研究。論文は6月7日付けで「Neuron」誌に掲載された。

NMDA受容体は、脳の神経細胞のシナプスに発現しており、記憶や学習に欠かせないもの。グルタミン酸を受け取ると、細胞内へカルシウムイオンを通過させ、学習記憶に必要な生化学的反応を引き起こす。通常、カルシウムイオンの通路はマグネシウムイオンが塞いでおり、神経細胞が別の受容体経由で興奮した時だけマグネシウムイオンが外れ、カルシウムイオンが通れるようになっている。このことから、「パブロフの条件付け」といった連合学習にかかわると考えられていた。

今回、宮下氏らは遺伝子操作によりNMDA受容体でマグネシウム阻害が起こらないショウジョウバエを作製。連合学習をさせると正常に学習はするものの、記憶を長期間維持するための神経細胞の遺伝子が抑制されていた。宮下氏らは、長期記憶に必要な遺伝子情報を読み出す転写因子のCREB(cAMP response element binding)たんぱく質に注目。マグネシウム阻害が起こらないハエでは、遺伝子を活性化できない「抑制型CREB」が増加していた。宮下氏らは「NMDA受容体のマグネシウム阻害は、余分なカルシウムイオンの流入を防ぎ、抑制型CREBの増加を抑えている」と結論付けた。

記憶力低下の一因として、NMDA受容体の機能不全が指摘されている。実際、アルツハイマー薬のメマンチンはNMDA受容体へのマグネシウム阻害と同様の薬理作用を持っている。宮下氏ら研究グループは、今回の結果から、老化による記憶低下や、アルツハイマー病のメカニズムの一部が明らかになると考えている。

2012年6月11日