真健康論:第33回 「リラックスの神経」=當瀬規嗣
自律神経は交感神経系と副交感神経系からなります。交感神経が「活動の神経」であるのに対し、副交感神経は「リラックスの神経」と呼ばれ、体の休息や回復に関係があります。副交感神経の主な作用は、胃や腸などの消化器系の働きを活発化させ、消化吸収を促すことです。唾液や胃液などの消化液の分泌が盛んになり、腸の運動も活発になります。これらの作用で体に栄養素を取り入れて、エネルギーをたくわえ、体の調子を整えて、次の活動に備えることができます。また、排尿や排便も活発になるので、これも体調を整えることに貢献します。
一方、副交感神経が働くと、心拍数が低下します。これにより血液循環が緩やかになります。ただし、副交感神経が血管をひろげる作用はごく弱く、血圧はそれほど下がりません。人が休息したり横になって睡眠を取ろうとしているときに、心臓がドキドキしたり、血液循環が盛んになって頭がカッカしたりすると、気分が落ち着かないし、なかなか寝付けないものです。そこで、人がリラックスしようとしているときには、それを邪魔しないように血液循環を緩やかにするのです。副交感神経は気管支を狭くする作用もあります。この作用の意義は今ひとつ明らかではありませんが、リラックスして運動をしていないときには、そんなに空気を吸い込まなくてもいいので、無駄を省くためかもしれません。
人は休息や睡眠を取ることで、体調を整えて次の活動に備えます。この目的のために、内臓の働きを調節するのが副交感神経の役割とも言えます。よく、「副交感神経はリラックスの神経だから、体をリラックスさせる作用がある」と言われますが、誤解のもとです。体を休めるかどうかは、あくまでも脳の働きであり、脳がリラックスを決断して、体を休め始めたり、食事を取り始めたりすると、それに呼応して副交感神経が働き始めるというのが、正しいのです。ちなみに、睡眠中は副交感神経が活発になると言われますが、これも副交感神経が睡眠を起こすのではなく、脳が睡眠状態に入ると、それに応じて副交感神経の働きが強くなるのです。
運動、食事、睡眠等を規則正しく行うと、自然と交感神経と副交感神経が切り替わり、体の調子を整えるのだと、理解してください。(とうせ・のりつぐ=札幌医科大教授)