睡眠障害は肥満、高血圧、糖尿病につながる。
摂食を調整するグレリンやレプチンの値を変えている。
快眠センターの上里彰仁氏が仕組みを話す。
まとめ:星良孝(m3.com編集部)
歳を重ねるほど睡眠の割合は減る
講師は東京医科歯科大学快眠センターの上里彰仁氏氏。(写真:村田和聡)
上里 睡眠の構成を説明しましょう。赤ちゃんは1日のうち、およそ半分以上は寝ていることになります。覚醒時間は歳を重ねるにつれて増えて、それに伴い睡眠の割合は減っていきます。また赤ちゃんではレム睡眠が多く、体をよく成長させて休めています。歳を重ねていくとレム睡眠の割合は減っていきます。これは正常な睡眠の構成です。
睡眠不足はなぜ肥満につながるか
睡眠と肥満度の関係。ウェブサイト「かくれ不眠ラボ」より。文献はTaheri S et al.PLoS Med. 2004;1:e62.
上里 睡眠時間と肥満の関係を調べたデータがあります。あまり寝ない人と言える、睡眠時間が6時間ぐらいの人は肥満度が高いです。もう少し寝る時間が増えると肥満度は低くなり、ちょうどいいのは7-8時間と言えます。注目すべきことは、さらに長く寝る人はまた肥満度が増え、図のようにU字型になることです。
7254人の男性について14年間のBMI増加率を追跡し、勤務形態との関連を調査したデータがあります。いわゆる中年太りでBMI自体は皆増えていくのですが、交代勤務者では日勤者よりもBMI増加率が高いことがわかりました。
睡眠時間と血清レプチン、グレリンの濃度を調べたデータがあります。レプチンは脂肪組織で産生されて摂食を抑制します。睡眠時間が比較的短い人は、レプチンが少なくなり、摂食抑制が十分でなくなります。一方のグレリンは、胃で産生されて食欲を促進します。睡眠時間が短い人はグレリンが多くなり、食欲が促進されます。このようなことが肥満に関わるとされています。
糖尿病との関係もU字カーブ
不眠を学ぶ。(写真:村田和聡)
上里 睡眠時間と糖尿病の有病率の関係を調べたデータもあります。睡眠時間7-8時間の人のリスクを1とすると、睡眠時間が5時間以下ではオッズ比が2.51、9時間以上では1.79となっています。こちらもU字型になっているのが特徴的です。
不足した睡眠時間とHbA1cの関係を調べた研究もあり、両者に正の関係があることが分かっています。
睡眠不足と血糖値やインスリン濃度の関係を調べたデータもあります。朝になるとインスリン分泌が始まりますが、睡眠不足がないグループもあるグループも、朝の時点でのインスリン分泌量に違いはありません。しかし、一方で血糖値に関しては、睡眠不足のあるグループではないグループに比べて高くなっています。このことより、睡眠不足があるとインスリン抵抗性が高くなると結論できます。
睡眠不足と糖尿病が関係する機序の一つとして、睡眠不足によりコルチゾールが増加し、インスリン抵抗性が高まり糖代謝が変化することが考えられています。そこに先ほどのレプチン、グレリン分泌変化も関係してきます。その他に、睡眠不足により日中の運動量が低下することも関連すると考えられています。
高血圧や脂質も影響
1週間の終わり金曜夜の講義。(写真:村田和聡)
上里 睡眠と高血圧の関係も説明しましょう。睡眠時間7-8時間の場合のリスクが一番低く、それより睡眠時間が短くても長くてもしてリスクは高くなり、やはりU字型の関係になります。
今度は睡眠不足と一日の血圧の変化を調べたデータです。強制的に睡眠を制限して平均睡眠時間3.6時間にしたグループと、睡眠時間8時間のグループの24時間血圧を調べました。睡眠制限されて本来寝ているはずの時間帯では、寝ているグループより当然血圧は高くなっています。一方、朝起きてからの血圧も、睡眠制限されたグループでは眠ったグループと比べて血圧の高い状態が継続します。睡眠不足が日中の血圧にも影響することが証明されました。
睡眠不足が高血圧を招く機序として、交感神経の亢進が考えられています。またレプチン減少とグレリン増加により、食事療法が阻害されてしまいます。睡眠不足により昼間の活動性が低下して、運動療法が十分でなくなることも考えられます。
睡眠時間と脂質異常症の関係も同様に、睡眠時間6-7時間をピークとしてトリグリセリドがU字型、HDLコレステロールが逆U字型を示すというデータがあります。