眠りの悩みを解決する
 

東京医科歯科大学、研修医セミナー
「不眠の医療」─Vol.6
2012年10月13日

睡眠障害は多面的。
原因や治療は一様ではない。
快眠センターの上里彰仁氏が症例を提示する。
まとめ:星良孝(m3.com編集部)

「眠れずに焦る」

「眠れずに焦る」
講師は東京医科歯科大学快眠センターの上里彰仁氏。(写真:村田和聡)

上里 最後におさらいも一部踏まえてケースを5つぐらい考えてみましょう。

ケース1。患者が言います。

「なかなか寝付けなくて焦ってしまいます。8時間は寝ないといけないと思います。9時には布団に入って頑張るのですけど…」

このケースは睡眠にこだわり過ぎる神経症性不眠で、夜9時に布団に入り、「寝よう、寝よう」と気合いを入れてしまい、ますます眠れなくなっています。医師としては、「布団に入るのが早過ぎだ」と指摘し、「時間に余裕が生まれて得したと思って12時、1時まで別のことをすればよい」とアドバイスします。「本も読みたい、テレビも見たい、でもどうにも眠いから仕方なしに寝る、というのが本来の良い眠り方です」と言ってあげます。一般科の先生方もよく遭遇しますが、睡眠科や精神科にコンサルトするまでもないと考える場合にまずこのように対処してみて下さい。

高齢者の悩み

上里 ケース2。患者は年を取って寝付きが悪くなり、夜中に何回も起きると言います。昼間に眠くなるので10分ぐらい昼寝すると言います。加齢による睡眠変化と思われ、「お年を召してくると当然ですよ」と説明します。10分程度の昼寝に対し、「それはよいことですね」と伝えるといいでしょう。

夜中も起きる患者。
夜中も起きる患者。

ただし、医師として大事なのは他疾患を見逃さないことです。先ほど述べた不眠の身体的要因の中でも、痛みや痒みなど、大きな問題ではないけれどもご本人がうまく表出できないことを、外来の度に少しずつ聞いていくとよいでしょう。前立腺肥大や、眠前に水を多く飲む習慣による夜中の尿意が関係していることも多いです。脳腫瘍や脳血管障害などの可能性など、お年を召しているから仕方ないで済ませられない場合もあることを頭の隅に置いておきましょう。

絶好調だから眠らない

寝なくても好調
寝なくても好調。

上里 ケース3。「最近眠れません。でも1時間ぐらいしか眠れなくても、昼間もすっきりしていて眠くない」というケースです。

絶好調の人が病院に相談することはまれですが、毎日1時間しか眠っていないとさすがに自分でおかしいと思うか、周りの人が心配して受診させます。このケースは睡眠欲求の減少を呈しており、躁うつ病の1つの症状である可能性があります。確かに軽躁状態では他人の倍の時間働き、精力的に仕事をこなすことができます。慢性的に軽躁状態のような人もいて社長まで上り詰めたり社会で大活躍したりする場合もありますが、病気としての躁状態は後に抑うつ状態が待ち受けているため精神科医の介入が必要でしょう。眠らなくても問題ないとは言えない症例です。

ケース4。患者が「夜、寝た気がしなくて朝から眠いです。何だかだるくて何もする気が起きないのです。集中力も落ちています」と言います。

寝た気がしない。
寝た気がしない。

不眠・意欲低下・集中力低下があり、誰もが最初はうつ病かな、と思います。ところが、患者は「うつ病なのかな。でも別に悲しいとか、うつっぽいとは思わないのですけど…」と腑に落ちません。そこで横にいる奥さんに質問して、「この人、いびきがすごいのですよ」と聞き出せれば睡眠時無呼吸症候群を疑います。

「夜眠れない」「昼間眠くてだるい」「何もできない」「集中力がない」というのはうつ病の症状ですが、睡眠時無呼吸症候群の症状でもあり、患者の「落ち込むとか、悲しいというわけではない」という言葉がヒントになります。よく鑑別せずに抗うつ薬や睡眠薬を処方すると病態が長引くばかりか悪化させることにもなります。

東京医科歯科大学の快眠センターでは、医科・歯科を含む総合医療大学の特色を生かして、呼吸器内科・精神科・耳鼻科・歯科が連携し睡眠に関連するあらゆる病態を網羅しようと努力しています。こういうケースでも診断と治療に多面的アプローチが必要となりますので、適宜、快眠センターにコンサルトして下さい。

夜間の異常行動

寝た気がしない。
寝ながら叫ぶ。

最後の5つ目のケース。奥さんが、「旦那が寝ながら叫ぶ。明け方に多い。蹴られたこともあります」と言います。本人は全く覚えていません。無理に起こすと、「でかいカブトムシに襲われている夢を見ていた」などと言います。夢の通りに、眠っていながらカブトムシと戦っている状況です。

これはレム睡眠行動障害です。「病気の存在を医師が知らないならば、その病気は存在しない」と言いますが、最近はテレビや新聞などで特集され、患者さんが自ら正しい診断をしてくることもあるので知っておいてください。

私たちはベンゾジアゼピン系の薬剤の1つであるクロナゼパム(商品名リボトリール)を第一に使用しますが、良く効く印象です。そのほか、パーキンソン病治療薬であるプラミペキソール(商品名ビ・シフロール)を使うことがあります。病気や薬についてよく勉強している患者さんには、どうしてパーキンソン病の薬を使うかを説明すると同時に、レム睡眠行動障害が同じくドーパミンが関係しているパーキンソン病やレビー小体認知症に進行する可能性を説明することがあります。


2012年10月13日 提供:東京医科歯科大学、研修医セミナー