人工毛を自分のまつ毛に付ける「まつ毛エクステンション」(まつ毛エクステ)。目をぱっちりと演出できるため大人気だが、トラブルも増えている。業界はより安全に楽しむための制度づくりを始めた。【大迫麻記子】
◇美容師の技術力養成へ アレルギー体質は注意を
まつ毛エクステは、化学繊維でできた人工毛を1本ずつ専用接着剤で地まつ毛に付ける技術。まつ毛が長く濃くなり、目を「ぱっちり」「切れ長」に見せる効果がある。つけまつ毛より自然で、付けていることが分かりにくい点も人気だ。
まずベッドにあおむけになり目を閉じる。施術者はピンセットで人工まつ毛を1本つまみ、接着剤を付けて地まつ毛の根元に貼り付ける。美容室や専用サロンで施術してもらうのが一般的。「日本まつげエクステンション協会」(東京都港区)副理事長の北沢雅一さんによると、人工毛の量は両目で数十本〜100本程度。約1時間〜1時間半で終わり、費用は2000〜1万5000円程度という。地まつ毛の成長でしばらくすると取れ始め、3〜4週間で付け直すことが多い。
同協会によると、約15年前に韓国から日本に入り、ここ6〜7年で急拡大した。現在サロンは全国に少なくとも1万〜2万店あるとみられる。正確なデータはないが、まつ毛エクステの関連材料を製造・販売する会社「松風」は、市場規模をおよそ750億円程度と推計している。
急拡大の一方でトラブルも出てきた。リクルートビューティワールド総研が11年3月、まつ毛エクステ経験のある都市部の女性366人(20〜49歳)に満足度を聞いたところ、73・5%が「満足」と答えた。しかし「まつ毛・肌などにダメージがあった」が3・3%、「施術の時しみる・痛い」が1・1%あった。国民生活センターによると、全国の消費者センターにあったまつ毛エクステの相談は09年度99件、10年度93件、11年度93件だった。「目が充血した」「目が痛んだ」という内容が多かった。
事業者で作る「まつ毛エクステンション協会連合会」(東京都中央区)を訪ねた。同会の説明では、人工毛が地まつ毛の生え際の皮膚に触れるとチクチクしたり、かゆみが出るという。また、接着剤が目に入ると刺激を感じたり、充血したりすることがある。安藤幸男代表世話人は「人工毛をまつ毛の生え際から離すこと、1本ずつ乾かしながら付けることが大切。経験から1・5〜2ミリ離してつけると症状が出にくいようです」と話す。だが離しすぎると人工毛が取れやすくなるので技術力が必要だ。
これまで業界では安全基準や技術指導水準が統一されていなかった。業界団体は15もあり、経験者が各地の教室で知識や技術、安全性を独自に教えていた。厚生労働省は08年、業界をとりまとめる狙いから、まつ毛エクステは美容師法が定める「美容行為」にあたるとして、「美容師」が施術するよう通達を出した。
しかし、まつ毛エクステは新しい技術。美容師の養成カリキュラムの「技術理論」はヘアスタイル関係に多くの時間を割いている。美容師の養成学校の中にはまつ毛エクステ教育を一部取り入れているところもあるが、美容師を目指す学生の大半は技術を学んでいない。都内でエクステサロンを経営する会社の幹部は「美容師資格の有無にかかわらず、技術が不十分な人も施術している実態がある」と明かす。
そこで安全性を確保するため、厚労省は昨年から検討会を開いている。今年8月、施術をする美容師に対し、医師会も協力してまつ毛エクステの教育プログラムを作る方針を決めた。また美容師養成のための教科書には12年度になってようやくまつ毛エクステの記述が加わった。
施術に問題がなくても、アレルギー体質の人や体調が悪い人は目がしみたり充血したりすることがあるという。こうしたリスクについて同検討会は、サロンが客にあらかじめ説明するよう求めた。
◇接着剤が起因、成分表示なく
まつ毛エクステのトラブルの多くは、接着剤に含まれる化学物質に起因するとみられている。中国、韓国から輸入されたものが多く、さまざまな製品が売られているが成分表示などの規制はない。
家庭用品品質表示法は、接着剤について成分や取り扱い上の注意を表示するよう義務づけている。しかし、まつ毛エクステ用接着剤は家庭ではなくサロンで使われていることから、同法の対象外だ。また、医薬部外品でもないため、薬事法の対象にならない。
安藤さんは「大手のサロンは成分を自社で分析して選んでいる」と話すが、個人事業者も多い。その一人は「口コミで安全らしいと聞いたものを使っている。表示がないので、自分で付けて試すしかない」と話す。
消費者庁には年に数回、接着剤の販売業者から表示に関する問い合わせがあるという。同庁は「法律上の義務はないが、消費者の安全のため成分や用途、取り扱い上の注意、成分が目に入った場合の対処法について記載するよう推奨している」と話している。