医療&健康ナビ:TORCH症候群 どんな症状が?
◇妊娠中初感染、胎児に影響も
神奈川県茅ケ崎市の主婦、相原知子さん(32)は、09年1月に次女未来(みく)ちゃん(3)を予定日より3カ月早く出産した。未来ちゃんには、黄だんや紫斑などがあり、検査の結果、胎内でサイトメガロウイルス(CMV)に感染していたことが分かった。生まれつき肺の疾患や心臓の奇形、中程度の難聴があり、生後1年3カ月間入院。今は自宅で暮らすが、肺の働きが弱いため酸素吸入器が手放せない。
◇食器共有も原因に
当時1歳だった長女(5)の尿を調べたところ、感染歴があった。相原さんは、未来ちゃんを妊娠中、長女とスプーンを共有したり、食べ残しの離乳食を食べたりしたことがあり、医師からは「それが(母子感染の)原因だろう」と指摘された。相原さんは「この病気の存在を知らず、無防備だった」と振り返る。
CMVは尿や唾液などを介して多くは乳幼児期に感染する。深刻なのは妊娠中に初感染したケースで、4割が胎児にも感染し、脳や聴覚に障害を及ぼす恐れがある。厚生労働省研究班が08年度から3年間、全国で生まれた2万3757人の新生児を調査したところ、73人(0・31%、300人に1人)が先天的にCMVに感染していた。うち、24人は年長のきょうだいの尿から同じ遺伝子を持つウイルスが見つかった。研究班代表の古谷野伸・旭川医科大講師は「自然に感染したきょうだいのおむつや食事の世話をするうちに、妊娠中の母親が初感染し、胎児も感染したのではないか」と話す。古谷野講師が北海道で妊婦約1000人にCMVの抗体の有無を調査したところ、33%は感染歴がないことが分かった。
CMVのように、妊娠中に初感染すると胎児に障害を引き起こす恐れのある病気には、リンゴ病や梅毒、風疹、ヘルペスなどがある。これらの病気は英名の頭文字をとって、TORCH(トーチ)症候群と呼ばれている。感染した週数によって異なるものの、胎児にさまざまな影響を与えることが分かっている。
◇注意すれば防げる
妊娠中にトキソプラズマやCMVに感染した母親たちが参加する「トーチの会」代表の渡辺智美さん(32)は「注意すれば防ぐことができる」と話す。渡辺さん自身は妊娠中に焼き肉店でユッケやレバ刺しを食べてトキソプラズマに感染した。トキソプラズマは生肉やネコのフンの中にいる寄生虫が、口から入ることで感染する。患者会のウェブサイト(http://toxo−cmv.org/)では「妊娠中の感染予防のための注意事項」をまとめている。
◇風疹の予防接種を
一方、昨年から近畿地方を中心に風疹が流行しており、厚生労働省は昨年5月、予防接種の徹底などを全国の自治体に呼びかけている。妊婦の感染症に詳しい三井記念病院の小島俊行産婦人科部長によると風疹は家族全体で注意が必要だという。
TORCH症候群の他の感染症と異なり、風疹には予防接種があるが、妊娠中は接種できない。妊娠20週より前に妊婦が初感染すると、胎児に心臓の奇形や難聴などを引き起こす恐れがある。小島部長は「最近、診察で妊婦の風疹初感染が続いており警戒している。職場で感染した夫からうつされたケースもある」と話す。20〜30代の男性は、乳幼児期の予防接種などで風疹が対象外だったため、免疫のない人が多いという。小島部長は「妊婦の家族や将来妊娠を望む人は、予防接種を受けた記録がなければ、積極的に接種したほうがよいでしょう」と話している。【袴田貴行、斎藤広子】