日本人向けの予防策
Dr.中川のがんの時代を暮らす:
これまで、がんに関する情報の多くは欧米発のものでした。たとえば、日光浴で皮膚がんが増えると言われますが、白人に対しては正しくても、有色人種の日本人にはあてはまりません。
1978年、旧国立がんセンター(現・国立がん研究センター)が「がんを防ぐための12カ条」を提唱しました。これは長く日本のがん予防の指針になっていましたが、その第10条に「日光に当たりすぎない」という項目がありました。
しかし、2011年に更新された「新12カ条」では、日光の項目がなくなっています。むしろ、日光を浴びるとビタミンDによって骨が強くなるほか、大腸がんなどを予防しますから、多少は日光に当たった方が良いためです。
日光と皮膚がんの関係に近い誤解が、飲酒による発がんでもあります。喫煙が、がんの原因のトップで、受動喫煙でもがんを増やすことは広く知られるようになりましたが、飲酒のリスクは軽視されています。
1996年に米ハーバード大のがん予防センターから発表された米国人のがん死亡の原因は喫煙が30%、食事が30%、運動不足が5%となり、飲酒は3%でした。一方、日本人を対象とした研究では、男性の発がん原因の9%、男女合わせても6・3%が飲酒によるものとなり、米国に比べて日本人の方がアルコールの発がんへの関与が高いという状況です。
このような結果になる理由は、日本人が「酒飲み」だからではありません。欧米と比べて日本のアルコール消費量はずっと少ないのですが、東洋人の4割がお酒で顔が赤くなり、これは白人には見られない現象です。アルコールが分解されてできるアセトアルデヒドを処理しきれず、体内にたまることで起きる状態で、「アジアン・フラッシュ」と呼ばれます。このアセトアルデヒドが発がんの原因になるため、白人ではあまり問題にならなくても、日本人は飲酒による発がんのリスクを無視できないのです。日本人向けのがん予防策が大事な理由です。
(中川恵一・東京大付属病院准教授、緩和ケア診療部長)