歯垢除去に磨き方2種
乳酸菌使う予防法も登場
自分ではわかりにくいため、逆に気になってしまうのが口臭だ。大学病院などの歯科・口腔(こうくう)外科では口臭外来を設けるところも増えており、相談に訪れる人も多い。治療と予防をしっかりすれば、不快感のない、さわやかな息は取り戻せるという。

口臭を気にするあなた。あなたはどのタイプに当てはまりますか。――。
1)「ニンニクが大好きで、ギョウザやキムチなどを頻繁に食べる。このためか朝起きた時ににおいが気になる」
2)「ビタミン剤や漢方薬を常用しており、時々舌が白くなり粘りつく」
3)「歯茎が腫れて炎症があるようだ。歯を磨いていると時々血が出る」
4)「何度歯を磨いてもにおいがあるようで気になる。不安と心配が晴れない」

タイプ1)は生理的口臭と呼ばれる。基本的には時間が経てば自然に消える。このため口をきれいにしようとする個人のケアで対応できるだろう。

2)の人は歯磨きなどの時に、鏡を見ながら柔らかいガーゼなどで「舌苔(ぜったい)」と呼ばれる舌の白い部分をようにするとよい。舌苔は体調が悪い時につきやすい。体調の管理や、だ液がよく出るように食事はよくかむといったことも気をつけたい。

3)の人は歯周病治療や歯科医ら専門家による口中のクリーニングを受ける必要がありそうだ。

4)の人は仮性口臭症や口臭恐怖症の可能性が高い。

口臭外来を通じてハリメーター(口臭感知器)などでにおいの成分の判定を受けてみよう。口臭判定がでなければカウンセリングや心療内科などの診療につなげてくれる。

口臭外来を開く東京女子医大の扇内秀樹教授(歯科口腔外科)は、「口臭の80%以上が口の中の環境悪化による。特に歯垢(しこう)がたまることで細菌がすみやすくなり、炎症を起こす。すると細菌がたんぱく質を分解して、メチルメルカプタンや硫化水素といったガスが発生してにおいが出る」と口臭のメカニズムを説明する。

においのきついものを食べる食習慣の人や虫歯・歯周病を治療した人など、冒頭のいずれのタイプの口臭でも、原因を絶つためには歯垢をためない歯磨きが基本だ。

「入れ歯やブリッジ、冠などがあると歯垢はたまりやすい。ブラッシングの癖で磨き残しが出ることもある。2種類の磨き方を合わせれば効果は増す」と扇内教授は説明する。

2種類の磨き方は図の通り。まずはフォーンズ法で円を描くように磨いていく。自分の歯の歯列を頭に描きながら1本1本表も裏も丁寧に磨く。次に小刻みに動かすバス法で歯茎ごとマッサージするように磨けば鬼に金棒だ。バス法の場合、歯ブラシは柔らかい毛のものを使うとよい。最初は歯科で指導を受けよう。

歯磨きによる歯垢のコントロールとともに、口の中の善玉菌を増やすことで、口臭の一因でもある歯周病を予防しようという考え方も登場している。

「ビフィズス菌や乳酸菌を食べ、腸内の細菌と共存させることで、腸内環境をコントロールする『プロバイオティクス』の考え方の応用」と話すのは東海大学医学部の古賀泰裕教授(感染症学)だ。日本歯周病学会などで今年、報告された。

ビフィズス菌や乳酸菌というとヨーグルトなど乳製品に入っていると思いがちだが、注目されているのはこれとは異なる乳酸菌LS1。健康な人のだ液に含まれており、歯周病の代表的な原因の3菌(P・ジンジバリス菌、P・インターメディア菌、P・ニグレッセンス菌)の増加を抑える効果がある。培養実験では、乳酸菌LS1を加えなかった時には歯周病菌が増加したが、添加したものは24時間で歯周病菌がほぼ死滅している。

乳酸菌LS1を含む錠剤型の菓子を、5粒ずつ1日5回食べてもらう臨床実験(対象は57人)をしたところ、口の中の歯周病菌3種は4週間後には平均で約20分の1に減少した。またハリメーターで口臭ありと判定された20人のうち13人が、8週間後には口臭が消えた。

虫歯や歯周病の人がバランスを崩しやすいだ液のPHを調べると、やや酸性(虫歯)、アルカリ性(歯周病)に傾いていた人が、4週間後には中性になった。

さらに歯周病の患者20人に対して、この菓子を粉末にして歯磨き粉として1日3回磨いたところ、歯周病の炎症の深さを示す「PD」の値が平均5.8ミリから、8週間後には4.7ミリへと改善した。

「乳酸菌LS1は自らが作り出す乳酸に弱く、すぐ消滅する。このため口の中を虫歯になりやすい酸性の状態にすることがない。極めて管理がしやすい特徴をもつ。菌のバランスを保つことで歯周病の予防に結びつく新たなマウスケアが見えてきた」と古賀教授は指摘する。

実験で使った乳酸菌LS1を含む菓子は、フレンテ(東京・板橋)が「クリッシュ」と言う商品名で発売している。

2003.6.21日本経済新聞