忘却は神経細胞新生が原因 PTSD治療にも期待
藤田保健衛生大(愛知県豊明市)の宮川剛(みやかわ・つよし)教授(神経科学)らの研究チームは、脳の海馬にある「歯状回(しじょうかい)」という部位で新たに神経細胞が生まれることで記憶が失われ「忘却」が起きることを、マウスを使った実験で確認したと、8日に米科学誌サイエンスで発表した。
宮川教授は「詳しいメカニズムが分かれば、将来的には、嫌な記憶をわざと忘れさせて心的外傷後ストレス障害(PTSD)などを治療する方法も期待できる」と話している。
研究チームによると、神経細胞が生まれることで新たな記憶が形成される一方、既存の神経回路が妨げられ、蓄えていた記憶が失われる可能性があると指摘されていた。
この指摘を実証するため、箱の中のマウスに電気ショックを与え、箱に入るとショックを思い出して足をすくめるよう学習させた。その後、大人と子どものマウスを5分ずつ箱に入れて足をすくませる時間を調べた。
神経細胞が作られにくい大人のマウスは学習から4週間後も記憶が残り、足をすくませる時間が長かったが、神経細胞が活発につくられる子どものマウスは、1週間後には足をすくませる時間が大幅に短くなり、2週間後にはすくませなくなった。
さらに、神経細胞と記憶の因果関係を確認するため、大人のマウスで神経細胞が作られる数を人為的に通常の1・5倍ほどに増やしたところ、足をすくませる時間が通常の半分程度まで短縮。逆に、子どものマウスで神経細胞が作られる数を抑えると、すくませる時間が長くなった。
研究チームは、ヒトが幼いころの出来事を思い出せない「幼児期健忘」という現象の解明につながる可能性もあり、さらに詳しい仕組みを調べる必要があるとしている。
引用:共同通信社 2014年5月9日(金)