早起きし食事きちんと
症状悪化なら医師に相談を
毎日、朝食もとらずに出勤、おまけに仕事が忙しくストレスが蓄積――。こんな生活を続けていると便秘に悩まされるケースが増える。症状の改善にはバランスのよい食事と規則正しい生活が不可欠。急な便秘にはがんなどの病気が潜んでいる場合もあり、気になるときは診察を受けてほしいと専門医は呼びかける。


 20代の女性Aさんは中学生時代から便秘気味で、便通はたいてい3、4日に一度。「どうしてもつらいときは薬を飲む」生活を繰り返してきた。最近、転職して仕事が忙しくなり、ますます症状が悪化。おなかがすっきりする方法はないかと悩んでいる。
 便秘は一般的には何日も便通がなく、排便に苦労したり不快感を抱いたりする場合の症状を指すが、医学的には明確な定義はない。
 「3、4日に一度しか便が出なくても、本人が不快と感じなければ便秘ではない」と慶応義塾大学医学部の日比紀文教授が説明するように、本人の感覚による部分が大きい。定期的に排便があっても、便が固くて出しにくいなどの不快を感じるのであれば便秘だ。
 食べ物は胃や小腸で消化・吸収、大腸へ送られ直腸を経て排泄される。何らかの原因によって、この流れのどこかが支障を来たすと便秘になる。
 普通は食べ物が胃に入ると腸が反応して働き始め、排便を促す(排便反射)。これは特に朝食を食べたときに起きやすい。しかし、会社に間に合わないとか、時間がないからといって、トイレに行くのを我慢していると、そのうち便意は消えてしまう。これを何度も繰り返していると排便反射そのものがほとんど起きなくなり、慢性的な便秘になってしまう。
 女性や老人では、おなかの力が弱く便を押し出せないタイプの便秘がよくみられる。ストレスなどによって神経の働きが乱れて腸の動きがおかしくなった場合も便が出にくくなる。これらの原因が複合して起きる便秘も多い。


 便秘対策の要点は、狂った排便のメカニズムを正常に戻すことだ。まずは排便反射が起きやすい朝に食事をしっかりとり、出かける前にトイレに行く習慣をつけるとよい。出勤前は慌しくなるので、ゆとりをもってトイレに行けるよう、早起きするなど生活のリズムをつくる工夫が大切だ。
食事の内容としては、野菜や海藻などの食物繊維をたくさんとることを心がけたい。食物繊維は便をきれいに形作るほか、腸を刺激して排便を促す働きがある。朝起きたときに、水や牛乳を飲むなど水分を摂取すると、これに腸が反射して便が出やすくなるともいわれている。
 ジョギングや水泳などの適度な運動は、おなかの筋肉をほどよく鍛える。おなかの筋肉が強くなれば便を出す力を高められる。
 やや趣を異にするが、いったん断食で内臓を休ませ、その後規則正しい食生活を実施するという方法もある。断食合宿を受け入れているアイジャパン伊豆健康センター医療室の國田一郎さんは、「食べないことで胃腸は排泄に集中する。腸をきれいにした後で食生活などのライフスタイルを見直した結果、便秘が治った人も多い」という。
 最近では終末に自宅でする「プチ断食」などを紹介する専門書や雑誌も多い。様々な自助努力をしても症状が改善しなければ、試してみたいという人も多いだろう。ただし無理をしないように注意が必要だ。
 便秘薬についてはどうしてもつらいときだけ使うのが望ましい。一口に便秘薬といっても、便を軟らかくするタイプや腸を刺激するタイプなど様々な種類がある。使用する場合は病院や薬局の薬剤師などと相談して効き目の弱いものから使うのがよい。
 薬は使い続けると習慣になり効き目が弱まったり、便秘のタイプと薬の種類によっては腹痛などを起こしたりすることもある。こうしたことから、便秘対策の基本はあくまで生活習慣の改善にある。


 便秘自体は、何らかの病気を起こしたりすることは、基本的にない。ただ便秘の陰にがんなど様々な病気が隠れていることがあるので注意が必要だ。
 特に、生活環境が変わったわけでもないのに急に便秘になった場合や、便秘の症状が次第にひどくなる場合は、大腸にポリープやがんなどの腫瘍(しゅよう)ができている可能性がある。このほか、免疫の病気などが便秘の原因になる場合もまれにあるという。
 日比教授は「便秘自体はそれほど気にする必要はないものの、以前と状態が変わってきたりしたら気をつけた方がよい。少しでもおかしいと感じたら医療機関で検査を受けてほしい」と話す。



便秘対策のポイント
・野菜や海藻など食物繊維を含む食品をバランス良くとる
・1日3食、規則正しく。特に朝食をしっかりとる
・朝起きたときに、水や牛乳を飲み胃や腸を刺激する
・トイレに行くのを我慢しない
・水泳やジョギングなど適度な運動をする
・便秘薬は効き目の弱いタイプから使う

 

2003.5.10日本経済新聞